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お座敷でのこと

大きな花柄の着物が似あう人

昔、会席料理のお座敷でアルバイトをしていた事がある。
そのお店はとても大きくて女の子は200人位登録していた。
私は、昼間の仕事があったので、週に2~3回、シフトを入れてもらっていた。
時間の1時間前に入って、着物に着替える。
着物はお店で借りるのだけど、自分で選ぶことは出来ない。
着付けをしてくれる人が2週間ごとにひとりひとりに選んで渡してくれたのを着る。
私は、着てみたい柄の着物があったのだけど、いつもそれは叶わなかった。
あとで知ったけど、背の高い人には大きな柄は着せてくれないのだそうだ。
どおりで私はいつも、小花の模様だった。
私が着てみたかったのは、薄緑色に大きな白の花柄の着物。
よくそれを着ていてとても似合ってる女の子がいて、ひそかに憧れていたんだけど、その子にある日突然話しかけられた。
『そのお着物、すごく似合ってるね。かわいい。』
私は信じられなかった。
びっくりして赤面してしまって、え、とか、いや、とか、なんだか良く分からない反応をしてしまった。
本当はこう言いたかったのに。
『えー!うれしい。でも私こそ、いつも思ってたの。その着物すっごく似合ってて、ステキな人だなぁって』

いつも私はとっさにそういう事が言えない。

着付けのお姉さん


肌着の支度が終わったら、自分の着物や帯を準備して着付けをしてくれるお姉さんたち(お姉さんといっても年配の女性たち)に声を掛けて順番を待つ。
私はこれが苦手だった。
忙しそうに着付けているところへ行って、次、お願いします、と言って順番を取るのだけど、なかなかタイミングがつかめない。
そんな時、市原悦子さん似のやさしいお姉さんにいつも助けられた。
悦子さんは、なかなか声を掛けられないでいつまでも肌襦袢姿でうろうろしている私を見かねて、次やるよ、って目で合図してくれた。
悦子さんに着付けてもらっている時、すごく安心した。
悦子さんが襟を直してくれているとき、私のほっぺに手の甲が触れるのがすきだった。
だから私は、悦子さんが襟を直す時、わざと下を向いたりした。
悦子さんは私の母よりもだいぶ年上の様に感じたけど、祖母よりは年下の様だった。
なぜかいつも私の事を気に掛けてくれた。


番頭さん

私は、お座敷ではあまり活躍できなかったけど、番頭の竹中直人似のおじさんには贔屓にしてもらった。
シフトを入れてもらいに、竹中さんのお部屋に行くと、文(ふみ・私の源氏名)は、いいこだなぁかわいいなぁと言ってくれて、
いつも私の望み通りのシフトにしてくれた。
他の女の子たちが、竹中さん全然シフト希望叶えてくれない、と不満を話していたから、たぶんほんとに贔屓にしてくれてたんだと思う。
だから私は、けっこう竹中さんの事がすきだった。
父親よりも年上の人だったし、たぶん既婚者だったので、口には出さなかったけど。

そんな風にして、私は悦子さんや竹中さんに優しくしてもらっていたから、厳しい女将さんや副女将に怒られても、なんとか続けられた。

食べられることのない銀杏

お部屋では、お酒を準備したり、お酌をしたり、お話し相手になったりするのだけど、ビジネスマンのおじさんたちはちゃんと座って料理を食べずに、すぐに席を立って、だれかにお酒を注ぎに行く。
私がこの人たちのおかあさんならきっと叱ってる。
まずは出されたものをちゃんと座って食べなさい、と。
だけど、おじさんたちにも接待とかなんとかいろいろあるんだと思う。
仕方ない。
それで私はいつも、お皿にいつまでも残っている銀杏を食べてしまいたくてうずうずしていた。
だあれも食べない銀杏が、いつもたくさん残ってた。

大きなお部屋の時は戦争みたいだった。
小さなお部屋の時は、緊張した。
いろんな女の人がいておもしろかった。
すごく美人な人もいたし、そうじゃない人もいた。
その中で、とても印象に残っている女の人がいる。
また今度、その人たちの事を書いてみたいと思う。






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