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Jリーグの登録ウインドーでは何をもって「移籍完了」となるのか?

2023年8月18日をもって、Jリーグ2023シーズンの第2登録ウインドーが終了しました。SNSのタイムライン上では、「どの手順が済んでいれば移籍完了が認められるのか」という疑問や、「ウインドーの終了日の前日なのにまだ正式リリースがないということは、もうこれ以上の補強はない」という誤解など、いくつかの情報錯綜を見かけました。一度、正しい理解促進のために整理をしようと思い立ち、筆を取ります。

前提:登録ウインドーとは

登録ウインドーとは、選手登録の「追加」及び「抹消」ができる「登録期間」を指します。一部の例外(例えば、無所属からの新加入や育成型期限付移籍など。後述の「注釈1」をご参照ください)を除き、通常の選手登録は、当該期間においてのみ許可されます。「移籍」とは、移籍元による登録抹消と移籍先による追加登録の両方が成立することを意味するため、「選手登録の追加及び抹消がウインドーでしか行えない」ということはすなわち「選手移籍は当該期間でしか行えない」ということを意味します。したがって、「ウインドー」=「移籍期間およびその締切」という一般的な理解は、概ね間違いありません。

登録期間(ウインドー、以下同)は、国際サッカー連盟(FIFA)の規則に基づき、日本サッカー協会(JFA)が定めるものです。Jリーグ2023シーズン開幕当時、FIFAは各国協会に対し、「年2回の登録期間を設けること」を義務づけており、「第1登録期間は、シーズンとシーズンの間に最大12週間」、「第2登録期間はシーズン中に最大4週間の期間」と定められていました。例えば、Jリーグ2023シーズンの場合、第1登録期間は、2023年1月6日(金)から3月31日(金)、第2登録期間は、7月21日(金)から8月18日(金)でした。

一方で、Jリーグ2023シーズンの第2登録期間はすでに終了しましたが、前述した無所属選手の登録や育成型期限付移籍、または、自クラブのアカデミー所属選手の2種トップ可登録、加入決定している学生選手の特別指定登録など、ウインドー外での例外措置となる選手登録については、9月8日(金)まで可能です。これはJリーグが定めるリーグ戦における「原則、シーズンの4分の3を過ぎての追加登録を不可とする」というルールに基づきます。裏を返すと、上記のような例外案件であっても、この「追加登録期限」を過ぎると当該シーズンについては一切の選手登録ができなくなります。

要約すると、Jリーグの選手登録は、以下のルールに従うものとなります。

・通常の選手登録はウインドー内においてのみ可
・例外の選手登録はウインドー外でも可。ただし「追加登録期限」を過ぎると一切不可

注釈1:JFAが定める『プロサッカー選手の契約、登録および移籍に関する規則』の第2条「登録」12項「登録ウインドーの例外」に基づき、それぞれ以下の通り定義されています。

◼︎無所属選手:登録ウインドー終了前に所属クラブとの契約が終了したプロ選手のこと
※したがって、登録ウインドー終了後に何らかの理由で無所属となった選手をウインドー外で例外登録することは不可です。

◼︎育成型期限付移籍:以下3点の条件を満たす期限付移籍であること
①登録年度の2月1日の前日における満年齢が23歳以下の日本国籍を有する選手であること
※すなわち、当該シーズンの開始=2月1日からの選手契約の開始、の前に23歳以下であること。したがって、多くの大卒1年目までの選手は、育成型期限付移籍の対象選手となります。
②期限付移籍契約の途中解約に関して、移籍元チーム、移籍先チーム及び選手の三者が予め合意していること
③移籍元チームのリーグより下位のリーグのチームへの期限付移籍であること
※したがって、J1クラブが本制度のメリットを享受することは、現規則においては不可となります。

JFA「プロサッカー選手の契約、登録および移籍に関する規則」https://www.jfa.jp/documents/pdf/basic/br20.pdf

移籍登録が完了するまでの手順

2つの登録先と登録期限

Jリーグ公式戦に出場するためには、JFAとJリーグの2つの団体により選手登録が承認されなくてはなりません。各団体による承認期限は、JFAが毎週水曜日の12時(正午)まで、Jリーグが毎週金曜日の午前11時までとなっており、両方で承認された選手がその週末の公式戦から出場可能となります。

第1及び第2各ウインドーの終了日が、必ず金曜日になっているのは、Jリーグによる承認期限が金曜日だからです。一方で、実態としては、移籍が認められるためには、その2日前の水曜日には当該選手の登録がJFAに承認されていなくてはなりません。したがって、水曜日の午後から木曜日にかけて成立した移籍は、JFA登録が間に合わないため、翌週での選手登録を目指すことになります。

2つの団体への登録方法

JFAとJリーグ、2つの団体への選手登録については、いずれも所定のシステムによって実行・承認されます。JFA登録は「Kickoff」というシステムを利用します。移籍先クラブがまず「抹消申請」をし、次に移籍元クラブがその抹消申請について「承認申請」を行います。作業としては非常に単純であり、ものの数クリックで完了します。移籍先クラブと移籍元クラブによる上記「申請」作業が水曜日の正午までに行われていれば、それをもって、各クラブが所属する都道府県サッカー協会とJFAが承認を行い、JFAへの選手登録が完了となります。

Jリーグ登録は「選手役員登録システム」というシステムを利用します。まず移籍元クラブが当該選手の「抹消申請」を行い、それをJリーグが承認します。Jリーグが抹消承認した選手は、システム上で無所属になり、移籍先クラブが「追加申請」をできるようになります。本システム上の登録作業も決して難しいものではなく、抹消申請はものの数クリックで完了、追加申請も新たな背番号や契約情報などをざっと入力するだけです。例外ではない通常の移籍であれば、前述のKickoffシステム上でのJFAによる承認が済み、かつ、選手役員登録システム上にメディカルチェックデータが入力されており、選手情報及び契約情報を含むすべての申請内容に不備がなければ、金曜日までにJリーグが申請内容を承認し、はれて選手登録(=移籍)が完了となります。

ちなみに、上記の通り、メディカルチェックもこの選手役員登録システムに入力します。シーズン途中の移籍であれば、メディカルデータは移籍元から移籍先に引き継がれるため、新規のメディカルチェックは不要です。

なお、国際移籍の場合は、FIFAの「Transfer Matching System(TMS)」上で移籍が承認された後、FIFAから発行される「国際移籍証明書(ITC)」をJFAに提出しなくては国内での選手登録が認められないため、さらに手間と時間がかかります。こちらの詳細については本記事では省略しますが、過去記事をご参照いただければ理解促進に役立つかと思います。

契約書類の提出

例外ではない通常の移籍であれば、選手契約書やクラブ間の移籍合意書は、金曜日までの選手登録とは別途、Jリーグが指定するオンライン共有フォルダに格納・提出します。一方で、注意しなくてはならないのは、ウインドー外の例外登録です。その中でも例年頻発する「育成型期限付移籍」であれば、水曜日のJFA登録までに「期限付移籍契約の途中解約に関して、移籍元チーム、移籍先チーム及び選手の三者が予め合意していること」を記す合意書の写し(全員の署名捺印済みのもの)を提出する必要があります。そのため、なるべく早くに公式戦に間に合わせたい場合は、相手クラブとの移籍合意、及び、選手との選手契約の合意の他に、関係者全員の署名捺印を大至急取りまとめる必要があり、かなり骨が折れます。

まとめ

本記事のタイトル『Jリーグの登録ウインドーでは何をもって「移籍完了」となるのか?』に直接的に回答すると、それは「JFAとJリーグの2つの登録システム上で選手登録が承認されていること」となります。そのために必要となる前述の手順を時系列で取りまとめると、下記の通りとなります。

■毎週火曜日、もしくは遅くとも水曜日の朝までには、両クラブ及び選手が、少なくともメールなど書面に残る形で移籍及び選手契約に合意する
■即日、両クラブが連携してJFAへの登録申請を済ませ、かつ、移籍元クラブはJリーグの抹消申請を実施する
■水曜日の正午にJFAが承認してひと段落
■その後、移籍元クラブによる抹消申請が水曜日か木曜日にはJリーグにより承認されるため、金曜日までに移籍先クラブが追加登録申請を実施する
■金曜日の午後までにはJリーグが承認して選手登録が無事に完了
※書類関係は別途Jリーグに提出しますが、育成型期限付移籍の場合は、水曜日の正午までに全員が署名捺印を完了させ、その写しを提出する必要あり

土日のリーグ戦へのメンバー入り有無や自チームの試合結果を踏まえて移籍を決断する選手も多いので、翌週のリーグ戦に登録を間に合わせるためには、前週のリーグ戦直後の日曜日、もしくは遅くとも月曜日あたりには移籍を取りまとめなくては上記プロセスに間に合わず、公式戦後にチームはオフであろうと、強化部は急ピッチで関係各所との調整及び登録業務を行います。

補足:移籍に関するリリース

移籍のリリースについては、両クラブの広報間で日程調整をします。様々な媒体で情報が公になる前に、ということで、どちらかのクラブのオフ明け初回の練習前やメディア公開日の練習前に正式リリースされるケースが多いです。一方で、そのタイミングでリリースがなくても、内々で移籍が完了していることは多々あります。

背景としては、水曜日のJFA登録に関しては、JFAがリリースをすることはないため公式情報が公にはならず、一方で、金曜日のJリーグ登録に関しては、Jリーグが毎週金曜日の午後(目安として15-16時頃)に、当該週における全クラブの抹消・追加登録をリリースするため、各クラブはその前にクラブ独自のリリースを掲出するようにします。つまり、当該週に決定した移籍は、金曜日15時頃までにリリースをすれば、外部メディアによる報道を除き、公式情報が公になることはありません。

したがって、ウインドー最終週の月曜日から木曜日まで何も音沙汰がなくても移籍が内々で確定していることはあり、ウインドー終了日の当日である金曜日にクラブから正式なリリース、その後、Jリーグの追加登録リストのリリースに名前が載っていれば、無事にウインドー内での移籍は完了となり、当該週末のリーグ戦から出場可能となります。

参考文献:

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