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22年12月に読んだ(読んでない)本

 2022年12月に読んだ本を備忘録的に雑感とともに列挙。基本雑レビューなのでご容赦ください。読んだ(読んでない)は文字通り、読んだかもしれないし、読んでないかもしれないという意味です。本当はあと2冊(「教養としての認知科学」と「エスノメソドロジー」)あるけど感想も出てこないほど読んでないので1月に。

◯Niklas Luhmann

 ドイツの社会学者、Niklas Luhmannの著作。特に面白かったのは「プロテスト」。全く無意味とは言わないまでも社会運動がオルタナティブなきオルタナティブの提示に留まっているし、それが運動の限界っていう指摘は結構重要だと思う。
 彼はオートポイエティックターン以前の著作「福祉国家の政治理論」では福祉国家に対して厳しい指摘をしていたけど、それに比べると後期に進んでいく中で(左派と社会運動に対して)完全否定までいかない態度に変容しているような。この辺は徳安彰が指摘していたはず。

社会の社会 2

 とにかく長いし高いし厚いけど、社会システム理論の基礎である分化の話をしている1章は普通に面白い。高校までの世界史と社会構造の変動(環節→中心-周辺→階層→機能)とを紐付けて見ることで歴史的な出来事が説明可能になるっていうのは理論の面白いとこの1つだと思う。

プロテスト

 Luhmannは社会運動をシステム理論のパースペクティブで見るとどうなるか?という問いに色んな本でバラバラ喋ってる。社会の社会でもそうだし、自己言及性についてだったりでもしてるけど突如出てきて混乱する。カード組み合わせて論文書いた弊害だと思う。
 この本ではそれら社会運動に関する記述をまとめてる。やっぱり社会運動に対する彼の見方は社会運動で親殺されたんじゃないかってレベルで冷酷というか何というか。ただ、問題の申し立てそれ自体に意義があって、運動自体それが目的な部分も否めないと思うので全面的に賛成はしない。

意味の歴史社会学

 Niklas Luhmann著「社会構造とゼマンティク」が全3巻と圧倒的長さなのでこっちで大まかなところを押さえようという魂胆。Luhmannのゼマンティク研究の概観はこれで把握できる気がする。特に愛のゼマンティク研究にしっかり触れてくれてるところがありがたい。Luhmann「情熱としての愛」は当然のこと、大澤真幸「恋愛の不可能性について」も結構難しいからこれくらい説明してくれる本は助かる。

社会システム論と法の歴史と現在

 (古本で購入)全体的に汚くてうっすらとしか読んでない。多分ちゃんと読まなくてもしばらく困らないと思う。

ルーマン理論の可能性

 Luhmann理論の解説書っぽいところがあるけど、それならば後出の長岡克行「ルーマン/社会の理論の革命」がしっかり全部を網羅した本を読んだほうが良い感ある。ただ学部の演習とかで扱っても面白そう。翻訳書じゃないから原典の概念もないし。タイトルの意味がよく分からない。

ブルデューとルーマン

 論集だから読みにくい/読みやすいが分かれるところではあるものの、全体的には面白かった。ただ、同時代の、中でも影響力の強い社会学者2人の理論比較というチャレンジングなタイトルの割には「ハーバーマス・ルーマン論争」のようなバチバチ感はなく淡々と進んで行った印象。

◯社会学系

理論社会学

 教科書としては微妙。というかこれ教科書にするのは結構無理あるんじゃy…という。少なくとも社会学専攻ではやらなそう(なるほど、だから文化構想学部で使われるのか)。Luhmann理論と行為論を都合よく混ぜ合わせてできた理論という感じ。ちょっと意図が分からなかった。

競争社会をこえて

 タイトル回収できてる?という感じ。こえようとする気概は感じるものの、その着地先が協力とな。うーむ。もう少し健全な(或いは倫理的な)競争みたいなものの想定&検討があってもよいという気はする。そういう意味でクリストフ・リュトゲの主張は理に適っている。

ディスタンクシオン Ⅰ

 言わずもがなの社会学の名著。岸政彦先生が帯に学生時代に夢中で読んだ的なことを書いていたけど、これ夢中で読んだらそらそうなりますわなと言う感じ。人間好きな人はこういう本好きな感じある。日本の場合はどうなの?と考えながら読んだもののよく分からなかった。「現代日本のエリートの平等観」とかを併せて読んでおきたい。

大量殺戮兵器を持った狂信者たち

 高橋徹先生の論文経由で読んだ本。思っていた以上に学術研究寄りの本だった。高橋論文でもテロリズムが機能システムとして成立しうると主張されていたように、9.11以降完全にテロリズムがそれ以前とは変化した印象。出来事が出来事だっただけに、9.11でアメリカも大きく変化してしまったことが新たなテロの動機となってしまった。日本でも元首相を射殺したテロがあったが、あれがテロとなるのはやはり単なる殺人になり得る行為であるテロに社会的な意味づけがされてしまうこと。それが宮台真司先生の襲撃と大きく異なった(事件のスケールの違いはあるにせよ)。あまりこの本から希望は見えない。

サイロ・エフェクト

 最新刊の「ANTHORO VISION」経由で拝読。こっちの方がより学術的な話をしてる。衝撃的なエピソードで始まった。日本で専門化(専門分化)し過ぎて生じた問題みたいなのがあまり取り沙汰されないのはそもそもこのレベルで専門化していないのか、はたまた上手くやっているのか。後者であって欲しいけどおそらく前者なだけ。だからこの本で書かれていることが全て日本でも当てはまるかというとそうでもないという。ただ、文化人類学的なフレームワークの実社会での実践例として読むとすごく面白い。

キャンセルカルチャー

 この1冊では全くキャンセルカルチャーを理解することはできない。起きていることベースの理解はできるのだけど、アメリカ史・思想的な背景やアメリカのリベラルに対する理解はこれ一冊では分かったとは言えないと言う感じ。読んだ感想としては、社会科学領域で以前から概念化されていたこと(フィルターバブルや炎上、経済格差などなど)が実践領域に本格参戦して生じている感。もう少し学際性を持たせた議論をしないことにはこれらの問題は解決できないんだろうなという。火種は日本にも落ちている。後はどの道を選ぶかと言うところか。

◯テック・ビジネス・自己啓発

ポスト・ヒューマン誕生

 途中で読むの辞めた。原典参照しないとなんともという感じではあるけど読みにくかった。ただ、日本で未来学っていうとしょーもない学士ばっかなイメージ(ド偏見)なので未来学に対する印象は変わった。思ったよりも過去に起きたこと、技術開発の速度とかに基づいて議論はしてる。ただ結局、それを未来の学というのはどうなの?という。予測可能な数年後を未来と呼ぶのか問題。

ハーバードの人生が変わる東洋哲学

 タイトルが最悪。こういうタイトルの付け方は本当辞めたほうがいい。読者バカにしてるようにしか思えない。内容はうすーく東洋哲学のエッセンスをプラクティカルに説いてる。「東洋」と名の付く大学(東洋英和女学院大学ではない)にいるのに東洋哲学に触れてこなかった罪滅ぼし。これ読むくらいなら『「いき」の構造』とか「東洋的な見方」と格闘するほうがいいかも。

限りある時間の使い方

 クソみたいな本。こんなの読んで人生変わったとか何とか言ってる人は黙ってハイデガーでも読んだらいい。いつの時代にも違った時間概念が存在していたし、単純に今と比較するのはナンセンス。読むんじゃなかった。

◯その他

「社会正義」はいつも正しい

 物議を醸してた一冊。既に指摘されているように概念理解や主張の構成に論理飛躍や(意図的な)ミスリーディングを感じる。が、「キャンセルカルチャー」と併せて読むと学術的な背景を補ってくれる点はある。それでも冷静に読まないといけない本だなという印象。

今を生きる思想 ミシェル・フーコー

 ありがたい。フーコーはどこから手をつけていいか状態で来てしまったのでこんなに薄く整理してもらえて良かった。現代新書100は本当に外れがないし、総じて評判良さげ。宇沢弘文のも面白かった。ただその上であまりフーコーには興味がないのと、フーコー自体が権威化してる問題は考えないといけないのではという感じ。

公衆衛生の倫理学

 「経済政策で人は死ぬか?」が経済学からのアプローチであったとすると、これは哲学・倫理学から公共政策(公衆衛生政策)にアプローチした一冊。ここでもフーコーが登場(生権力)。アガンベンも政府が生の権力を持つこと/行使することに対して批判的な主張をしていたけど改めて難しい。ロックダウンがなければフランスもアメリカもあれでは済まなかったのでは。公衆衛生政策の倫理はコロナの公衆衛生学的、公共政策学的な総括と併せて今後より議論を深めないといけない領域になりそう。

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