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第4回:「能動式学修形式」の在り方と展望

はじめに

近年、ディスカッションやディベート、プレゼンテーションなどのアクティブ・ラーニング(以下、AL)が流行を見せている。ALは単に講義や授業を受けるだけの受動的学習の対概念であり、学習者が主体的に課題を発見し、解決に向け能動的に学ぶ学習のプロセスを指す
本稿をお読み頂いている先生方の中にもALを授業に取り入れ始めている方も多くいらっしゃるのではないだろうか。
筆者が在籍している慶應大のシラバスにも、2024年度から新たにどのような形式のALが展開されるのかを示す項目が追加されるなどの広がりを見せている。
以下では、ALにはどのような形式が存在するのか概観した後、受動的学習と比較しながら今後のALのあり方に関して検討したい。


Chapter1:能動的学修形式を概観する

以下、先述したとおり、ALの形式についてまとめた。これ以外にも形式は存在するが、慶應大シラバスに明記されている項目を引用した。尚、引用した部分で筆者が強調したい点は太字で示した。
①実験、実技、実習
学内外の施設・設備において、学生が自ら活動し、体験や試行錯誤によって、教育内容に関する理解を深める方式
②フィールドワーク
学内外のフィールドに赴き、学生自らが調査や観察を通して情報収集させる方式
③プレゼンテーション
学生が資料等を作成し、授業内で発表を行うことによって、教育内容に関する理解を深める方式
④ディスカッション、ディベート
特定のテーマについて、学生が相互に意見交換や議論を行うことによって、教育内容に関する理解を深める方式
⑤グループワーク
学生を少人数のグループに分け、教育内容に関する課題に取り組ませる方式
⑥ロールプレイング
学生に特定の役割を与えて演じさせ、それぞれの立場を体験することによって、教育内容に関する理解を深める方式
⑦反転授業
教育(講義)内容をあらかじめ授業開始前に学習させ、授業においては、その事前学習の内容に関して質疑やディスカッションを行う方式
⑧PBL(問題解決学習)
具体的なプロジェクトや問題を設定し、学生がそれらの課題解決を試みることによって、教育内容に関する知識やスキルを学ばせる方式


上述の8つの形式は学生自らが体験する学習、あるいは他者との交流のいずれかに力点が置かれているといえるだろう。

Chapter2:学生自らが体験する学習

受動的学習とALの違いは学習内容をいかにして理解させるかという問題意識の違いから生ずる。前者は、教師が分かりやすい授業を展開し、復習をさせることで学習内容の定着を図ることがほとんどである。それに対し、後者は学習内容を学生自らに体験させることで定着を図る。
「生きた知識」と「死んだ知識」
ALはこのような問題意識のもとで展開されるため、様々な場面で応用可能な「生きた知識」を学生は身に着けることができると期待される。一方、受動的学習では知識を覚えていても、それをいつ、どのように使ったら良いのかわからず、結局何も出来ない状況と変わらない、つまり「死んだ知識」を身につけてしまう可能性が高い。
・Cognitive perspective(認知的展望) 
R.S.Petersは著書「教育に目的は必要か」(1960)にて、以下のように述べている。

「教育された」人間は、何をするかよりも、何を「見て」、「把握して」いるかによって区別されるのである。たとえ訓練された事柄を非常に上手くこなしたとしても、彼はそれを他の物事と関連した、広い視野のもとで見なければならない。(中略)教育された人間は、ある分野、たとえば科学の分野で訓練を受けても、世界の他の見方についても十分に認識することができ、自分の仕事の歴史的展望、社会的意義、文体上の利点、その他多くのことを把握することができる。

R.S.Peters「教育に目的は必要か」(1960)

Petersはここで、教育をされた人間は「生きた知識」をもとに、批判的精神を持つことでこそ世界を様々な視座から照射することができると述べている。
とすれば、知識をただ単に詰め込むだけの行為は「教育」とは呼べないのではないだろうか。それらは確かに知識を得る上では重要な行為であることに疑いは無いが、「教育」という文脈で語ることには違和感を感じてならない。

Chapter3:他者との交流

これに関しては、特に言及する必要性がないと思うので簡潔に。他者と交流することで自分の意見、考えに対し内省的になれるほか、新たな知見を得られることが期待できる。

まとめ:ALの今後

ALは今後、さらに進展していくだろう。ALは学生に「生きた知識」を定着させ、批判的精神を育み、多様な視座から世界を見渡せるようになることを促す。
従来は受動的学習の中に、いかにしてALを取り入れるかということが重要であった。しかしながら、今後はむしろ受動的学習をいかにしてALの授業に取り入れていくかが鍵となってくるのではないだろうか


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