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スタートアップは小さな革命みたいなもんなんだなと思った話

3D義足プリンタ義足の開発を始めてから8年、スタートアップとなって事業として取り組み始めてから4年が経った。
2022年末、ようやく最初の事業所であるフィリピン事業所が、単月黒字化を達成した。

  • 義足を3Dプリンタで製造することで

  • これまでの1/10以下になる価格での義足の製造販売を実現し

  • 開発途上国においても、誰でも義足を購入できるという持続的なビジネスを構築する

という、一見超簡単にも思える事業コンセプトを実現するのに、まさか基礎開発に4年も、次いで事業POC完了までに4年もかかるということは、さすがにこのテーマに取り掛かった頃には全く想像していなかった。

「一生サラリーサラリーンでいるのはなぁ。。。」と考え始めてから、事業テーマ(いわゆる"起業ネタ")を見つけるまでのサーベイ期間、すなわち青年海外協力隊の時期を合わせると、34歳から44歳までの10年間をこのテーマに費やしてきたことになる。
まじか、俺ってもう44歳なの?この前まで34歳だったのに?という気持ち。

俺は決してスマートな方ではないし、落とし穴を効率的にヒラリヒラリと避けながら最短距離を進んでいくタイプではなく、泥臭く一つ一つの困難を解決しながらズルズルと這っていくタイプであるとは思うのだけれど、だからこそ他にはない生々しい言葉になるかもしれないと思うので、言い尽くされたこともしれないけれど、スタートアップという社会装置の存在意義、みたいなものを、この機会に自分の言葉で残しておければと思った。

スタートアップが黒字化を達成したということは、小さな革命を成し遂げたということで、たとえその範囲はとても小さくとも、確実に世界をちょっとは良くすることができたってことなんだってことを。

俺たちの事業でいうと、超低価格義足のビジネスがフィリピンで黒字化したということは、少なくともフィリピンにおいてはこの事業があと10年、20年、それ以上に続いていくということ(の、少なくともその可能性)を証明したということ。

それは、今後フィリピンにおいては、

  • 今後、フィリピンの政府が大がわりして、たとえ福祉予算が大幅に削られるようなことになろうとも

  • 世界のどこかで戦争が起こり景気が悪くなって、寄付の額が大幅に減ろうとも

  • 地域政府の財政が破綻して、公共事業が回せなくなろうとも

  • 義足を求める人がいれば、適正価格で義足を購入できるインフラ、社会装置の構築ができた

ということになるだろう。これは言い換えれば、

  • 不幸にも下肢を切断することになってしまった障がい者さんが、国や、地域や、経済に人生を左右されないということと、

  • 自分が人生を諦めさえしなければ、足を切断しても”義足を得て、働いて人生を取り戻すんだ”という気力さえあれば、マクロな環境がどうあれ”自分次第で”人生を取り戻すことができるようになったんだ、

とも、言うことができるだろう。

それは、これまで国や地域や経済に人生を依存せざるを得なかった障がい者さんが、それらのものからの独立を果たすことができた、ということを意味するのだとも、考えることができるはずだ。

これまでフィリピンの下肢切断障がい者さんたちは、フィリピン政府の脆弱な福祉政策の、被害者だった。
公立の義足製作所はあるにはあるが、そこで作られるものは決して質が良いとは言えない義足だし、その上で購入できる人数は必要とする人のほんの一部。俺たちの調査では、必要とする人の1.5%以下の本数しか、そもそも義足が生産されていなかった。
その上、政府や寄付団体の財政状況やらで、そもそも義肢装具製作所がストップするなんてこともある(実際に、コロナ禍の時期は長らく公立の義肢装具製作所はストップしていた)。
義足を必要とする障がい者さんは、国、寄付団体、経済の都合で、自分の人生を諦めざるを得ない状況に追い込まれてしまっていた。

もっと具体的に言うと、コロナ禍の間、かなり長くの間、フィリピンで義足を提供していたのは民間の義足製造業者である俺たちだけだった。
俺たちは「外出したら銃で撃たれる」みたいな強固なロックダウンだった2020年の4月〜6月以外のすべての期間、5万円以下の値段で義足を製造し、販売し続けてきた。
この時期に不幸にも下肢を切断せざるを得なかった患者さんが、俺たちからも義足が購入することができなかったとしたら、きっと1年、2年と義足を購入できないまま時間がたち、廃用症候群になってしまい、筋力等の身体機能が回復できないほどに著しく低下せざるを得なくなったりして、一生を棒に振ってしまう、みたいなことが、今よりももっとたくさん発生していただろうと思う。
それはまさに、義足を必要とする障がい者さんが、国、寄付団体、経済の都合で、自分の人生を左右される状況、というに等しい。

少なくともフィリピンの下肢切断の障がい者さんにおいては、今後、そのようなことは起こらない。俺たちがフィリピンで超低価格義足の製造販売のビジネスが、持続可能であることを、単月黒字化という形で証明したから。このビジネスが10年、20年、それ以上に続いていくだろうから。

彼らは今後、国、寄付団体、経済の都合で、自分の人生を左右されない。
彼らは今後、マクロな環境がどうあれ、”自分次第で”人生を取り戻すことができるようになる。持続的にだ。
それら、国、寄付団体、経済の都合からの、実質的な独立を果たしたと言えるんじゃないだろうか。

スタートアップが、未知なる社会問題を解決するためのビジネスに挑戦し、その事業で黒字化を果たすということは、そういう意味を持つんだろうと思う。
社会における様々な環境によって、不遇・不便であることを強制され、自力ではどうしようもなできない状況にいる人たちが、自立自尊による独立を成功させる、という意味。
大きな意味での隷属状態からの解放と独立、すなわち小さな革命という意味を持つんだろうと。

社会に生きる誰しもが、環境により、何らかの訳のわからない強制を受けて、人生をめちゃくちゃにされる、みたいなことを一度は経験したり、目にしたりするんじゃないだろうか。
例えば学校におけるいじめなんかがその分かりやすい例になるのでは。
生まれ育ったエリアによって、ほぼ強制的に”公立の小・中学校”という隔離環境に”義務である”と放り込まれ、例えそこに同級生としてサイコパスがいようと、教師という仮面を被った潜在的犯罪者がいようとも、そして、そのような存在からの精神的・肉体的な責め苦を受けたとしても、義務としてそこに居続けないといけない、みたいな地獄にいる人がたくさんいる。
そういう状況からは例外なく解放されないといけないし、そんな社会装置はアップデートされないといけない。

スタートアップは、そういった不具合を孕んだ社会装置をアップデートさせる(例えば、いじめという奴隷状態からの解放を実現させる)、小さな革命を起こすることができる、そんな可能性をもっている。

もし、

  1.  教育が行き届いていない国/地域で、全く新しいE-Learningを普及させる

  2. その国/地域の教育が従来型の教育よりも素晴らしものであると証明される

  3. 日本の社会制度がそのエビデンスを受けて変わっていく

みたいな形で日本の教育という社会装置のアップデートを成し遂げようとするのなら、それを最も手取り早く実行し、実現させ、実装できるのは、スタートアップだろう。

そして、もしこのような教育スタートアップが「教育水準の向上」という成果を上げつつも、黒字化を果たすことができたのならば、それはすなわち、そのような新しい教育システムの実装や普及を止める・阻害する術がほぼなくなったことを意味する。要するに、そのコンセプトが(革命が)半ば実現されたに近しい(=小さいな革命の成功に近しい)ということなのだろうと思う。

福祉や教育だけじゃなくて、食糧や、エネルギーや、環境や、紛争や、差別や、地域などのために、様々なスタートアップがそれぞれの分野で、全く新しい方法で、それぞれの問題を解決しようとしている。
これから、もっとっもっと、たくさんのスタートアップが、それぞれの分野で小さな革命を次々に成し遂げていくことで、たくさんの人が、それぞれのどうしようない外的要因で囚われていた状況から、物理的にも精神的にも解放されて自律自尊を果たし、そして、あらゆる面で豊かになっていって欲しい。

ここ100年ぐらいの人類の大きなインサイトとして、世界を一気に変えるような大きな革命により、一気に世界を良くしていくんだ、という僕らの親やその上の世代が信じていたコンセプトは、残念ながら成立し得ない(というか、一旦成立しても持続しない)ということが証明されたということがあるだろう。そのことは、ほとんどの人にとって、今やとてもシュアなことであろうと思う。

でも、そのような大きなインサイトを受けた人類のアップデートとして、各々が各々の分野で小さな革命を起こしていくことでこそ、今後の世界は良くなっていくんだ、という「スタートアップ」という名の、この新しい世界を良くするスキームについては、どれほどシュアになっているだろうか。

自分達の事業の黒字化(一部だけれども)を経験して思うに、スタートアップという活動が、このような大きな社会的意味・意義をもつ、今世界に求められる社会的装置であるということ、そしてそれが立派に機能するのだということを、分かりやすく示していく・発信していくことも、スタートアップのプレーヤーとしての一つの役割かもしれないな、などと思った次第。

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