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今年の3冊

さて、今年も残すところあと2記事を投稿するのみになった。今のところ1,328日の連続投稿が続いているので、大晦日までに何も起こらなければ計1,330記事を投稿したところで今年を終えることとなる。

今年最後の投稿はきっとこの一年の振り返りになるだろう。そのひとつ前となるこの投稿は、今年やり残した“アレ”をやろうと思う。

そう、 #今年のベスト本 である。

松波太郎の『カルチャーセンター』に始まり、チェーホフの『かもめ』に終わった私の今年の読書であるが、途中で投げ出してしまった本が多数あったこともあり、読了した本は30ちょっととそこまで多くない。

ただし、読了したものは非常に面白く読んだということもあり、その中から1冊を選ぶのが非常に難しく感じている。

ということで今回は、その中でも特によかった3冊を、甲乙をつけずに紹介することにした。


1冊目は、エイモス・チュツオーラの『やし酒飲み』。

誰かに貸していて手元に本がないので、岩波書店の紹介文を引用する。

「わたしは,十になった子供の頃から,やし酒飲みだった」――.やし酒を飲むことしか能のない男が,死んだ自分専属のやし酒造りの名人を呼び戻すため「死者の町」へと旅に出る.その途上で出会う,頭ガイ骨だけの紳士,指から生まれた赤ん坊,不帰(かえらじ)の天の町…….神話的想像力が豊かに息づく,アフリカ文学の最高峰.1952年刊.

岩波書店『やし酒飲み

この説明だけだと全くもって意味不明だと思うが、実際の小説はさらに支離滅裂だ。しかもチュツオーラは母語ではない英語で本作を書いたこともあり、作品中終始“カタコト”なのだ。その“カタコト”加減は日本語訳にも“きちんと”反映されている。

いってしまえば「キワモノ」なのだが、それでもなお「先が気になる!」と思わせるところに素晴らしさがあるように思料する。文学的な価値や作品としての完成度はさておき、とにかく面白かった。

中高時代クラスにひとりくらいの割合でいた、よくわからない物語を書いて同級生を楽しませていたあの“ノリ”を思い出させてくれる。繰り返すがとにかく「キワモノ」なので、読む際はそのつもりで。でも面白いよ。


2冊目は、黒田夏子の『abさんご』。

<受像者>
aというがっこうとbというがっこうのどちらにいくのかと,会うおとなたちのくちぐちにきいた百にちほどがあったが,きかれた小児はちょうどその町を離れていくところだったから,aにもbにもついにむえんだった.その,まよわれることのなかった道の枝を,半せいきしてゆめの中で示されなおした者は,見あげたことのなかったてんじょう,ふんだことのなかったゆか,出あわなかった小児たちのかおのないかおを見さだめようとして,すこしあせり,それからとてもくつろいだ.そこからぜんぶをやりなおせるとかんじることのこのうえない軽さのうちへ,どちらでもないべつの町の初等教育からたどりはじめた長い日月のはてにたゆたい目ざめた者に,みゃくらくもなくあふれよせる野生の小禽たちのよびかわしがある.

黒田夏子『abさんご』

冒頭を引用してみたが、絶望的に読みにくいことが手に取るようにわかるだろう。私も何度も挫折したが、一応なんとか読み通すことができた。

そんなわけで、私にしたってこの作品をきちんと理解しているとはいえないが、この「読書体験」が非常に上質に感じられたことだけは否定することができない。先の『やし酒飲み』はひたすらに意味がわからない世界が続くのに対し、こちらは意味はわからないながらもその後ろに何かとても美しいものがあることを感じさせるのだ。

こちらも繰り返しになるが、とにかく読みにくい。それは承知の上で、ぜひ挑戦してみてほしい一冊だ。


3冊目はとても迷ったが、遠藤周作の『影に対して』という短篇集にした。

2020年に長崎市遠藤周作文学館で見つかった未発表の原稿『影に対して』他5篇からなる。この短篇集、副題が「母をめぐる物語」となっていて、全ての物語で母が重要なテーマとなっている。

『影に対して』から一部抜粋する。中学生の主人公勝呂に別居中の母が送る手紙がその内容だ。

「昨日、母さんはSさんの音楽会に行ってきました。あなたも知っているように、今の母さんにとって、そう度々、音楽会には行けぬし(経済的な事情のため)でもSさんは母さんがモギレフスキ先生に習っていた時の友だちでしたから、どうしても聴きにいきたいと思ったのです。もう八年も会っていませんが、会っていないから余計に聴きたかったのです。でも正直に言って、演奏が進むに、母さんはひどく失望しました。演奏曲目はセザール・フランクのソナタという曲(あなたもいつか聴きなさい)でしたが、Sさんはテクニックだけで弾いています。
母さんはながい間、苦労して、一人ぽっちで生活して、あなたの面倒も見てあげられなかったけど、それを償うためにも勉強だけはしてきました。毎日、毎日、勉強だけはしてきました。だから自分の勉強から言ってもSさんのヴァイオリンが、テクニックだけで、音楽というものが何もわかっていないことを感じました。テクニックだけのことなら、練習で誰でもうまくなれますが、音楽にはもっと高い、もっともっと高い何かがあるのだと母さんはいつも思っているのです。演奏会が終って一人で夜道を歩きながら、あなたのことを考えました。私してあなたもテクニックだけの人生を生きるような人間にならないでほしいと思いました。たとえ周りの人がそれを安楽だとすすめても。」

遠藤周作『影に対して』

あれこれ読んだ中で3冊目にこれを選んだ理由はいくつかあるが、特に大きなものは2つ。1つは、作者が自らの過去を曝け出す様に感銘を受けたこと。死後発見されたということを鑑みても、本来であれば発表されるべきものではなかったのかもしれない。当人が発表を念頭に置いていなかったことで、より生々しい胸の内の吐露となっているように感じられる。

もう1つは、私自身が今年経験した母の死だ。やはりどうしても「母」というテーマには敏感になっている。小説の中で描かれている「母」と私の「母」には大きな隔たりはあったが、母に向けられた愛には共通する部分があった。それに出会い、私は安堵し、涙した。

発売されてまだ日が浅いということもあり、そこまで有名な作品ではないのかもしれないが、改めて遠藤周作の素晴らしさを感じられるものとなっている。ぜひ手に取っていただきたい一冊だ。


3作品紹介したが、他にも『ブコウスキーの酔いどれ紀行』(ブコウスキー)、『ハツカネズミと人間』(スタインベック)、『イーハトーボの劇列車』(井上ひさし)、『メノン』(プラトン)、『少年の日の思い出』(ヘッセ)、『街とその不確かな壁』(村上春樹)、『かもめ』(チェーホフ)あたりは心に残る読書だった。おすすめ。


あなたの今年のベスト本は何でしたか?ぜひ教えてくださいね。


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