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今日も今日とて自己紹介 〜フランスに来てから香水ブランドを立ち上げるまで Part 1. 語学学校時代編〜

写真は、今でも仲良しの語学学校の先生Anne-Sophieの猫、アテナちゃん。ヴァカンスシーズンになると毎年預かっている。
※本文とはなんの関係もありません。

前回の『自己紹介は続くよどこまでも 〜私がフランスに来た理由〜』にて、調香師になることをとりあえずの目標としてフランスに来たところまで話した。2015年9月、パリ同時多発テロの1ヶ月前のことだった。

フランスに来て、語学学校に通いながら、パリ中の香水屋を巡った。
名前だけは知っていたブランドの香水を試せることが幸せで幸せで、日々様々なお店に顔を出し、時間をかけて吟味し、それなりの数の香水を購入した。

ちょっと脱線。香水のことをあまり知らない人のために補足すると、香水好きは、香水を試したり購入する際に、ブランド名と同じ、あるいはそれ以上に、その香水の調香師に注目する。名の通った調香師の作品だと、ブランド自体はあまり知られていなくても自然と期待値は上がる。
「調香師が複数のブランドの香水を調香するの?」と思った方のためにさらに補足をすると、調香師は、
① 香料メーカーに所属している
② 独立している
③ ブランドに所属している
の3つのパターンがあるが、多くが①で、③のケースはほとんどない。調香師自身がブランドを持っているケースはまだ比較的少なく、また、自身のブランドを持っている調香師も、ほとんどはまだ香料メーカーに在籍し、他のブランドの香水を手掛けながら、自分のブランドをやっている。
どこかのタイミングで香水業界のことについてもまとめたいと思う。

話を戻そう。しばらく嬉々として香水を購入する時期が続いたが、ある時にふと疑問が生じた。Jovoyという、有名な香水のセレクトショップに、ある香水を試しにいったときのこと。著名な調香師が作ったその香水を試した時に、「全然良くない…」と思ったのだ。
今思うと、この経験がブランドを作る契機となっている。それまでは良い香水は良い調香師により作られるものだとばかり考えていた。しかし、それだけでは片手落ちで、良い香水を作るためには“良いディレクション”が不可欠だ、と感じるようになった。
また、「良い調香師」とはなんぞや、ということについて考えるようになったのもこの時期からだ。香水マニアの間でチヤホヤされている調香師が、必ずしも良い調香師ではないように思えてきたのだ。

本日2度目の脱線。これはのちに、香水業界で働いているうちにわかってきたことなのだが、香水マニア間での調香師への評価と、調香師の間での評価との間には、無視できないほどの差がある。少し極端な表現になるかもしれないが、前者は露出が多い人を評価し、後者は調香技術を評価している、というのが私の印象だ。

こんなことがあった。ある香水ブランドが日本に上陸した際、そのブランドの調香をしている調香師に「スターパフューマー」という謳い文句とともにスポットライトを当てていた。一緒に働いていた調香師に、「この人知ってる?」と聞いたら、「名前も聞いたことない」との返事が。その人がどんな香水を過去作ってきたかを調べると、特段有名な作品を作っているわけでも、評価の高い香水を手掛けているわけでもなく、「スターパフューマー」とは到底呼べそうもないプロフィールであることがわかった。
何をもって「スターパフューマー」とするかは呼ぶ側の勝手なので、そのこと自体を批判するつもりはない。しかしこの例は、香水の作り手と消費者の間にある情報格差の大きさをよく示していると思う。2度目の脱線はここで終わり。

さて、今日は脱線が本線のようになっているが、構わずに進もう。フランスに来てからの一年での学びをまとめる。

① 優れた調香師になるには、時間もお金も経験もたんまり必要そう
② 香水の世界で働くには、なにも調香師になる必要はない。その他様々な職種がある
③ 良い香水作りには、優れた調香師だけでなく、良いディレクションが不可欠
④ フランスで就職するには、どうもフランスの学位がないと難しそう
⑤ 語学学校、結構楽しい

ということで、結局語学学校に1年半ほど通い、一番上のクラスまで修了することとなる(後で先生に聞いたことだが、どうも語学学校卒業時の成績は、トップかそれに近いものだったらしい)。
次回、語学学校卒業後、香水の専門学校にアプライするが…えぇ、そんなの聞いてないよぉ〜!裕太の運命や、いかに…!乞うご期待!

さて、ここから先は、少し話題を変えて、「調香師になりたい」と考えている人に向けて、私の考えを共有したい。
上記の通り、私も当初は調香師になることを一つの大きな目標にしていたが、それはあくまでも仮の目標だった。それ以外になりたいものが見つかったら、そちらにすぐ方向転換するつもりだった。
調香師になることを、とてもとても、とてーーーも難しい狭き門であることのように言う人をちらほらと見かけるが、私の周りを見ているとそこまでではなさそうだ。フランスにいくつかある調香を学べる学校に通い、香料メーカーで職を得る事は、もちろん簡単ではないが、やってやれん事はない、というレベルのことのように思われる。語学、お金、時間が大きな制約条件になりそうだが、それらは人生の中では比較的なんとかなる部類のもののように思う。
やりたい事が、兎にも角にも調香師としての職を得る事であれば、それでなんの問題もないであろう。とにかく自分で調香をしてみたい、それを職にしたい、というのであれば、一刻も早く香水の専門学校に入ることをオススメする。
問題は、自分の願望がそうでなかった時だ。私の例を説明する。
再三書いているが、私も当初は調香師になることに憧れていた。しかし、フランスに来てじっくり考えていくうちに、ただ自分で調香をしたい、という事は私が望んでいることではない、ということに気がついた。私は、私の香りの哲学に従って、良い香水を世に出したいと思ったのだ。もし仮に私が調香師になったとして、なったは良いものの、自分が望んでいる香水を作るには力不足だということに気がついてしまったら、それこそ悲劇だ。一方で、世の中には力のある調香師が存在している。彼らと働いて良い香水を作ることで私の欲望が満たされるのであれば、そちらの方があらゆる面において良いことなのではないか、と考えるようになった。
昨今、SNSを見ていると、「調香師になりたい」という人をよく目にするし、私に直接連絡をくれる人もいる。日本においても、香水及び調香師という職業が脚光を浴び始めていて、大変に喜ばしい。
しかしながら、今のところ、“香水が好き=調香師になる”という、若干短絡的な考えが多いように思えてならない。香水に関わる仕事は様々。どのような形で香水に関わるのが幸せか、時間をかけて考えてみると良いのではないかなぁ、と、私は思うのです。

一応、ひっそりとではあるが、フランスで本場の香水業界に携わっている身なので、もし何か相談事等あれば、気軽に連絡してほしい。私に手伝えることや提供できる情報があれば、そんなに嬉しい事はない。

ここまで読んでくれた方、ありがとうございます。また次回もぜひ読んでください。

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