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ユウウツを使う権利

神戸でこの記事を書いている。

伊勢丹新宿店での「サロンドパルファン2024」から中1日での出張となった。正直かなり疲れているが、このタイミングで少し東京を離れるのは悪くないだろう。新幹線の中では、久しぶりに「シンカンセンスゴイカタイアイス」も味わうことができた。あまりカタクナカッタけど。


予定の合間に、神戸にあるçanomaの取扱店「折角堂」にお邪魔してきた。眼鏡好きの私は、店内にある眼鏡をあれこれ試しながら、パリの眼鏡の展示会「SILMO」が面白かった、とか、ここ最近の眼鏡のトレンドはどんなでしょう、とか、今までノーマークだったとあるブランドの今期の眼鏡がいい、とか、店員さん達と眼鏡談義に花を咲かせた。

その後どういうわけか、話は「日本語の乱れ」へと移っていった。ここ最近、オンライン記事の誤字やおかしな表現が急に増えたような気がする、ということで我々の意見は一致した。特に気になったオンライン記事の誤字やおかしな表現に関してスクリーンショットで保存している私は、それらの中から“珠玉の変な日本語”をピックアップし披露した。恐ろしいことに、大手媒体が何の臆面もなく酷い言い回しを掲載していることも多々ある。プロフェッショナリズムとか愛とかプライドとか、さまざまなものが欠如しているような印象を受けるのは私だけだろうか。


その流れで、「気軽に使われているのを見るとモヤッとする熟語」についての話題で盛り上がった。折角堂の店員さんは、「静謐」という言葉にモヤッとするらしい。確かに「静か」を表すにあたって、“かっこいいから”程度の理由で「静謐」を使うケースは多いのかもしれないが、それはその熟語がもつ「厳かさ」等のニュアンスを無視している可能性が高いのだろう。あまり気にしたことはなかったが、意外とあちこちで“気軽”に使われている熟語かもしれない。

私は「余白」という言葉にモヤッとする。特にそれを作り手が自身の作品について用いる際、往々にして自らの技術不足に対する“体のいい言い逃れ”のように思えてならない。もちろん、意義深い余白や必要な余白はあるので、すべてのケースとは言わないが、私はどうしてもこの言葉を目にすると“素人まがい”という印象を受けてしまうのだ。


「僕、自分で書けない漢字は、基本的に使わないようにしているんですよ」

折角堂の店員さんのその言葉に、ハッとさせられた。確かに自分では書けないがパソコンやスマートフォンの変換で何気なく入力している漢字に対しての解像度は、実は結構低いのではないか、と思った。私も日々記事を書くにあたってオンラインで類語等を調べるが、そこで見つけた“よさげな熟語”については、ニュアンスまできちんと把握しないまま気軽に使っていることが多いような気がしたのだ。


とてもいい話を聞いた、これから文章を書くときは、私ももうちょっと熟語のニュアンスに注意を払おう、と反省した矢先のことだった。

「だから僕、『ユウウツ』って、普段使わないようにしているんです」

折角堂の店員さんは、冗談半分だったのだろう、そう言い放った。確かに日常的によく使う言葉ではあるが、いざ書くとなると話は変わってくる。


ユウウツ、ねぇ…漢字で書けるかな…ユウは大丈夫、ウツは…

私は頭の中で「ユウウツ」の漢字を思い浮かべようとした。

その時、耳の奥の方から、不思議な歌が聞こえてきた。それは歌と呼ぶには稚拙で脈絡もないが、そこには確固たる響き、のようなものがあった。


きかんきわきょうわちゃわちゃわちゃわちゃひみー…

きかんきわきょうわちゃわちゃわちゃわちゃひみー…


お笑い芸人「オジンオズボーン」のネタだった。知らない人はぜひYouTubeなどで検索していただきたいのだが、「ユウウツ」の「ウツ」の書き方を、各部位を分解してそれぞれテンポよく読み上げて語呂合わせにしているリズムネタがあるのだ。


きかんきわきょうわちゃわちゃわちゃわちゃひみー…

木缶木ワ凶、、、、ヒミ

鬱…


か、書けた…!

憂鬱、書けるわ…


リズムネタって、恐ろしい。「きかんきわきょうわちゃわちゃわちゃわちゃひみー」なんて、普通覚えられないでしょうよ…


いずれにしても、私はオジンオズボーンのおかげで、これからも「憂鬱」を大手を振って使う権利を獲得することができた。まさかこんなところで何気なく目にしたリズムネタが生きるとは思ってもみなかった。


めでたし、めでたし。


おしまい。


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