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ご褒美と成長

アパレルブランドのデザイナーをしている友人と話していた時、彼の口からこんな主旨の発言が出た。

「自分にとっては、シーズンルックの撮影は“ご褒美”みたいなもの。一生懸命作った服が、どうやったらよりよく見えるかを、他の人たちが考えながら撮影をしてくれるのが嬉しい。自分のために頑張ってくれている姿を見るだけで涙が出そうになる」

シーズンルックとは、新商品をリリースする際に、モデルにその服を着せてブランドの世界観を複数の写真で表現したもののことを指す。彼の場合は春夏と秋冬で年2回撮影を行うことになる。先の発言は、最近税理士さんに「シーズンルックの撮影にお金をかけすぎている」と指摘をされた、という話の流れで出たものだった。

「自分のために頑張ってくれている姿を見るだけで涙が出そうになる」というのはちょっとだけ分かるような気がする。香水にはシーズンやそれに類似する考え方がないので、シーズンルックを撮影する現場にいる彼の心境を完全には理解できていないだろうが、昨年行った新宿伊勢丹での単独に近い形でのポップアップの際の、業者を入れて施工した時の私の感情と近しいものがあるように想像した。閉店後の百貨店に、思いがけない数の大人が集まり、突っ立っている私たちの前で、トンカチしながらあれよあれよという間にスタンドが完成していくのをぼんやりと眺めていた、あの時に味わった不思議な高揚感は、今でもよく覚えている。少人数でブランドを運営している手前、ブランドのために多くの人が働いてくれているということはなかなかないということもあり、そういうのを目にすると、自然と涙が溢れそうになるものなのかもしれない。とはいいつつ、その伊勢丹の施工を眺めている時は泣きそうになるほどではなかったので、きっと彼が感じている喜びには程遠いのだろう。


それはさておき、仕事に直結する形での“ご褒美”があるというのはいいことであるように思う。大変なことがたくさんあっても、そのために頑張れるのはもちろんのこと、それが回り回って仕事そのものにいい影響を与えることにもなる。先の彼にしたって、彼としては“ご褒美”と捉えているシーズンルックではあっても、そもそもそれは重要な仕事であるし、結果的にそこでいいシーズンルックが出来上がることで、ブランドにはポジティブな結果として跳ね返ってくるはずだ。


さて、私における仕事上の“ご褒美”はなんだろうか。先のポップアップ時の施工というのは、彼の“ご褒美”のように仕事の本質に直結するものとはちょっと違う。さらに、そもそも施工を入れてのポップアップがまだ少なく、また施工が入っても夜中であることがほとんどで、実際にそれを目にすることもあまりない。そんなわけで、彼のシーズンルックの撮影に比べるとその興奮は小さいし機会も少ない。

いずれにしても彼におけるシーズンルックの撮影ほどではないが、私における“ご褒美”は、出張で色々なところに出向いたりポップアップで面白い人に出会うことだと思った。よく「フットワーク軽いですね」と言われるが、それはあちこち行くのが元来好きだし、そこでの出会いにいつも胸を躍らせているからだ。

私は営業やら視察やらポップアップなんかをある種の“口実”として、色々なところに気軽に赴いている。その中の多くはコストに対して見合うリターンが得られていない。ただそれは確実に私の中の“肥やし”となっており、最終的には巡り巡ってそれがブランドにポジティブな影響を及ぼすと信じてやまない。

私は“ご褒美”を獲得し続け、ブランドはいい方向に進み続ける…「飴と鞭」ではなく「ご褒美と成長」というのが、ブランド運営だったり起業のあるべき姿なのかもしれない、と冒頭の彼の話を咀嚼しながら、私は思った。自分が楽しいと思えることが、結果的にブランドや会社をいい方向に導いていく…そういう循環を作れている人や組織は、きっととても強い。

だから私も、税理士に何と言われようとも、出張に行く足を止めるつもりはない。それを止めることは、私の楽しみも、そしてブランドの成長も、奪ってしまうことになるのだから。

という、素晴らしい“言い訳”を手に入れたので、これからも性懲りも無くあちこち行きます。さて、次はどこへ行こうか…


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