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時よ、止まれ

この記事は火曜日にパリからイスタンブール経由で東京に帰るフライトに乗る直前に投稿されるはずだ。今は前日月曜日の午前。ミーティングに向かうメトロの中で筆を執った。


昨日までナポリにいた。ナポリの空港に向かうバスの中でふと、帰国が2日後であることに気づき、驚いた。

もう帰国か…


いつもそうだが、パリに来る時は憂鬱だ。スリに気をつけなければならないし、時間通りに動かない電車やバスを織り込んで行動する必要がある。意地悪なフランス人、失礼な店員、道に転がる犬のフン、狭いエレベーター…止まっているエスカレーターを見るたびに、なぜフランス人は、エスカレーターひとつまともに動かせないのだろう、と不思議に思う。

ただ、日本に戻る時は、「もう少しいてもいいかな」と思わないでもない。パリにはパリにしかない魅力があり、それに関しては私も認めざるを得ない。とはいえ、帰国が私を安心させることには変わりないのだが。


ナポリからパリに戻る日、私は「帰りたくないな」とふと心の中でつぶやく自分がいるのに気がついた。素敵な旅行だったが、ナポリを“味わい尽くした”とは言い難かった。もっとこの街の魅力の源泉を知りたかったし、あの景色の中にずっといたいとさえ思った。

そんな願いが天に届いたのだろうか、見事に飛行機が遅れた。少し早めに空港に着いた際、掲示板に表示されていたフライトが軒並み遅れていたので嫌な予感はしていたが、ご多分に漏れず私のフライトも遅延することとなった。


東京からパリに向かう飛行機で観た『リバー、流れないでよ』という映画を思い出した。諸事情により2分間のタイムループから抜け出せなくなってしまった人々が描くドタバタコメディだが、あるシーンで、実はそこにいる全員が「これ以上時が流れないでほしい」と心のどこかで思っていたことが明るみになる。それが現実になってしまった時に、必ずしもポジティブなことばかりが起こるわけではないことを知るのは時間の問題だが、「時よ、止まれ!」という願いは、万人に共通するもの、ということなのだろう。


時よ、止まれ…!


19時半出発を予定していた飛行機に乗り込んだのは20時半だった。機長は遅れの原因を説明し出した。まずはパリからのフライトで急病人が出たことでナポリ到着が遅れ、またナポリの空港がきちんと機能していなかったことで空港到着後も飛行機が待たされたとのこと。ただ、それでは終わらず、空港のカオスな状態のせいで、さらにこれから30分は飛ばずに待機しておかなければならないらしい。機長はナポリの空港を責めたが、本当に自分たちには非がなかったのかはよくわからない。

そんなことはどうでもいい。いずれにしもて、「帰りたくない」という私の願いは叶えられたのだから。

機内では本を読んで過ごした。シャルル・ド・ゴール空港に着いてゲートを出たのは23時半近くだった。最終電車にはギリギリ間に合う時間ではあったが、もし途中でアクシデントがあったらそれこそ帰れなくなってしまうので、私はタクシーに乗ることにした。

少し待った後にタクシーに乗り込んだ。行き先を告げ、私は大きくため息をついた。

「どこからのフライト?」

運転手に尋ねられる。

「ナポリからだよ。2時間も遅れたんだ」

「他にもいくつか遅れている飛行機があるみたいだね。この時間に空港までくるタクシーは少ないから、みんなどうするのかな」

かなりのスピードだったが、彼は運転がとても上手だった。スムーズに飛ばし、家に着いたのはちょうど深夜0時。タクシーに乗ってよかったと感じた。


おやすみをいってタクシーを降りた。

部屋の鍵を開けた途端、そこにはいつもの生活が待っていた。

私はホッとした。翌日から出国までの2日間はバタバタするが、なんとか頑張れそうだと思った。


時よ、止まれ…!


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