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たくさんの点、一本の線

大阪出張が決まった時、私はすぐに京都のビストロ『ル・サンジュ』とその近くのホテルを予約した。出張だけで日帰りしなければならないほどスケジュールが立て込んでいたわけでもないこともあり、それだとひどく勿体無いと感じた。ミーティングは午前中で終わるはずだから、夜の予定をひとまず入れてしまって、その間については追々埋めていこう、と考えたのだ。

大阪での午前中のミーティングと京都でのディナーというふたつの「点」をどう繋ごうか思案した。大阪にできた新しい取引先に顔を出す、とか、既存の取扱店に挨拶に行く、とか、思い切って観光をする、とか、あれこれ思いついたものの、新しい取引先と既存の取扱店のいくつかが定休日だったし、暑い一日であることが予想されたので、結局営業中の取扱店をいくつか巡ろう、と出張の前日まで考えていた。

出張の準備中、探し物をしていたら、思いがけず母が使っていた小さなリュックサックが出てきた。化粧ポーチ、手帳、老眼鏡といった彼女の日用品が入ったものだった。

手帳を見ていると、「京都三十三間堂」と書かれた小さな紙の袋が挟まっていた。そしてその中には「頭痛除御守」と書かれた小さなお札型のお守りが入っていた。

そうだ、このお守りを三十三間堂に納めにいこう、と思った。


大阪では10月に発売するçanomaのヘアオイルの生産現場に立ちあった。

ベルトコンベアの上をボトルが流れる。中をエアで洗浄し、オイルを充填。ポンプを装着して締める。ロット番号を印字して検品。化粧箱に入れる。箱を閉める。箱にもロット番号。ダンボールに詰める。ダンボールを閉める。

ひとつひとつの点が繋がって、プロダクトが出来上がっていく。そこには思いがけず多くの人がたずさわっている。私が目にした光景の前後にも、原材料を採取する人やバルクを作る人、輸送に関わる人など、多くの「点」が存在しているのだ。


大阪で早めのランチを済ませて、電車に乗って京都へ移動した。先頭車両の前方からは、運転手の後頭部と左右に流れる景色が見えた。特急電車に乗ったので、点在する駅をどんどん通過していく。

線路が駅を作るのか、駅が線路を作るのか、どちらなのだのだろうか。きっと後者なのだろう。点が線を形作っていくのだから。


三十三間堂にははじめて足を踏み入れた。

1,001体の千手観音像と二十八部衆像、風神・雷神像がずらりと並ぶ。立ち止まっては手を合わせる。ひとつひとつの「点」は、それぞれどんな思いで作られたのだろう。それらは私たちをどこかへと導いてくれる「線」となっているのだろうか。

お守りをおさめるところがわからなかったので、入り口にいた職員の方に尋ねると、預かってくれるとのことだった。お礼をいって、ご厚意に甘えることにした。点から点へと、お守りが渡り、線ができる。

きっとこのお守り、私の妹が旅行か、もしかしたら修学旅行で京都に行った際、頭痛持ちの母親を思って買ってきたのだと思う。母はそれをずっと持ち続けていたのだ。母の頭痛が消えることは残念ながらなかったが、幾分かはやわらいだはずだ。


こんなふうに、昨年の春先に亡くなった母の「点」を思いがけず見つけることがある。私はそれらが、私のところまで数珠繋ぎになっているのを感じる。


夜は例によって美味しかった。ポテトフライ、色々キノコのバターソテー、ラタトゥイユ、人参とカラムーチョのラペ風、鱧のフライ、白バイ貝の香草バターソテー、牛ヒレ肉のステーキ。たくさんの料理を、ちょこちょこと。それらの「点」が繋がり、今日の夜という「線」と、私という「線」をそれぞれ形作る。

隣にいた、私と同様ひとりで来ていた男性と思いがけず話が盛り上がった。私たちはそれぞれ、目に見えない商材を扱っていた。ふたつの「点」が「線」によって結ばれた。


たくさんの「点」によって、一本の「線」が浮かび上がった、そんな1日のお話。


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