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香るのは煙ではない、というお話。
お香の説明をする際、「煙が香っているのではなく、熱によって香り分子が拡散されている」というと驚かれることがままある。
今日はそれに関して、タバコを例にとって説明したい。きっとそちらの方がわかりやすはずだ。
展示会なるものにはじめて出展者側で参加している。バイヤーとの出会いに止まらず、出展者間の横のつながりも生まれ、思いがけず充実したものとなっている。
それは2日目が終了した夜のことだった。一日中立ちっぱなしで疲れ果てていたものの、残すところあと3日、まだ折り返し地点にも到達していなかった。
その日はなぜか親子丼が無性に食べたくなった。帰宅途中にスーパーにより、鶏もも肉300g(これが一番小さいサイズだった)、玉ねぎ一袋(ひとつでよかったのだがバラ売りのはひとつも残っておらず、5個入りの袋が1つあるだけだった)、ミツバ(どうせ余らせるんだろうなぁ、と思いながら)を購入した。
疲れていたのだろうか、作る際、初っ端から「砂糖小さじ2杯」を誤って「砂糖大さじ2杯」入れてしまった。ただ、見ていたレシピは鶏もも肉100g、玉ねぎ半玉しか使わないものだったので、いっそのことその三倍の量を使って鶏もも肉を全て使い切ってしまおう、と思った。幸いなことに玉ねぎもたくさんあるから、少し多めに入れることにした。
ミツバを入れ忘れ丼によそった後にパラパラとふりかける始末になったが、いずれにしても美味しくできた。満腹になった私は、少し仮眠を取ろうと思い横になった。
これは通常であれば“気づいたら朝コース”なのだが、その日はどういうわけか30分くらいですっきりと目が覚めた。何をしようかと考えたあげく、ここ数日運動ができていなかったので、代々木公園に軽くランニングに行くことにした。その頃には夜10時半をすでに回っていた。
西門から入り、坂を上り切ったところにある、周回コースに入る手前の50メートルほどの平坦な道のちょうど中央あたりの、私から見て左手側に1組の若い男女がいた。多少ヤンチャそうな雰囲気のふたりは、すぐそばにあるベンチには腰掛けず、その前に向かい合って立っていた。
私がふたりの方向に向かっていく途中、女の子はずっと声を出して笑っていた。そこには少しだけ相手を馬鹿にしたような響きを伴っていたように記憶しているのは、私が今となってはそこで行われていたことを知っているからだろうか。
ふたりの横を通り過ぎる際、男の子が
「諦めきれないから」
と口にしたのを私は聞き逃さなかった。
どうやら、男の子が女の子に告白をしていたようだった。
女の子の返答が気になりながらも、私はそのまま周回コースに入りランニングを続けた。
ランニング中もふたりのことばかりを考えていた。あの女の子の笑い方から察するに、きっと“脈なし”なのだろう。その上「諦めきれない」ということは、告白するのもはじめてではないはずだ。もしかしたらすでに3回も4回も気持ちを伝えているかもしれない。
代々木公園の周回コースは現在一部通行できなくなっているので、私は適当なところで引き返すことにした。ふたりがまだあの場所に止まっていることを祈りながら、入ってきた西門を目指した。
周回コースから先のふたりがいる道へ入った瞬間、私の鼻はタバコの臭いをとらえた。それはきっと、小説だったらあまりよくないことへと繋がる伏線の役割を果たしただろう。
ふたりは今度はベンチに腰掛けていた。暗闇の中で、ホタルのように光るタバコの火がちらついた。
私の場所からはどちらがタバコを吸っているのか判別できなかったが、近づいていくとそれが女の子であることがわかった。
男の子は、スマートフォンを片手に、俯きながら鼻を啜っていた。きっとしばらく泣いて、少し落ち着いたタイミングだったのだろう。
女の子が私を認めた際、彼女は少しだけバツが悪そうに、タバコをコンビニのコーヒーの紙カップのような容器の中に落とそうとした。が、思い直してその手をそのまま口に持っていった。
「普通さぁ、男は女の前で…」
私が通り過ぎた後、後ろでそういう女の子の声が聞こえたが、私が聞き取ることができたのはそこまでだった。私のところに届くものは、タバコの臭いだけだった。
その後に続く言葉は「泣かないだろ」だったのだろうか。いずれにしても、彼女の言葉にはどこか棘があったように思われた。
なんだか私までやるせない気持ちになった。せめて隣でタバコは吸わないであげてほしかった。彼の悲しい気持ちまで、その臭いによって拡散されてしまいそうだった。
と、こんなふうに、煙が拡散しなくても、タバコの臭いは思いがけず遠くまで広がる。これはお香も同じ。
という、お話。
ちなみに、çanomaのお香は、微煙タイプです。お見知りおきを。
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