「プ」大統領からの依頼
ナポリのホテルで友人ふたりと朝食をとっている時のこと。
私たちの目の前には、中年の白人男性と中年のアジア人女性、そしてアジア系の顔をした高校生くらいの男の子の家族連れ(多分)がいた。英語で会話をしていたが、それは誰の母語でもなさそうだった。
ふたりは夫婦で、子供はお母さんの連れ子、というのが私の予想だが、真相はよくわからない。
その白人男性は、肌だけでなく毛の色もかなり薄いことと、その顔の作りから、「プ」から始まる現ロシア大統領を思わせる風貌をしていた。すごく似ている、というわけではない一方で、彼の顔写真を見せて、「誰に似てますか?」と尋ねられれば、かなりの人がその大統領の名前を挙げたはずだ。
友人たちには私がそう思ったことはあえて告げなかった。そもそも友人ふたりにはこの家族のことが目に入っていたのかも定かではなかった。
その日の夜、私は不思議な夢を見た。
私はどこか中学校のようなところにいる。お昼過ぎくらいだろうか、校舎内はたくさんの人で溢れかえっている。ただ、私はこの学校の生徒でも先生でもない。現実世界と同じ仕事をしているが、どうやらこの学校をオフィスとして使っているようだ。
その時まさに、「プ」から始まる例のロシア大統領が学校に現れる。私はなぜかとても怖くなり、見つからないように身を隠す。
彼が立ち去ったのち、彼の来校の目的が私への香水制作の依頼だったことを知る。なぜわざわざ私なんかに頼もうと思ったのかは全くわからない。できることならば取り組みたくない案件だったが、断ったら断ったで殺されてしまうかもしれない…そんなことを考えて、とりあえず依頼を受けることにする。
かの大統領は私への参考資料として分厚い紙の束と、香りのサンプルがたくさん入った大きなジップロックの袋を置いていった。彼が帰ったあと、学校の先生のひとりからそれらを受け取る。ジップロックの中には香水ボトルも入っていたが、なぜか蓋を閉めると真四角になるタイプの、三角形のボトルに入った目薬も見える。
この目薬を、どう使えと…?難航するであろうプロジェクトに思いを馳せる。
とりあえず調香師Jean-Michel Duriezに制作の依頼がきたことを連絡する。あの大統領からのリクエストで、参考資料の中には目薬も入っている、ということを伝えると、「それはいい話じゃないか」と喜ぶ。本当にいい話なのかな…と訝しがっているのはどうやら私だけのようだ。
どんな香りにしよう…どんな香りにする“べき”なんだろう…私はそもそもこの案件に本当に取り組むべきかを悩みながらも、とりあえず香りについて考え始める。
カプリ島に渡った際、私たちはまた先のファミリーと鉢合わせることになったが、そこには子供の姿は見えなかった。大統領似の彼がポーズを取る彼女の写真を一生懸命撮っているところだった。
友人のひとりが、「あの人たち、同じホテルに泊まってるよね。あの男の人、ロシアの大統領に似てると思ってたから覚えてるんだよね」と口にした。
すかさず私もそう思うことを伝え、さらに上記の不思議な夢を見たことまで話した。
私たちは愉快に笑った。それはナポリの素敵な思い出の1ページになった。
それにしても…この夢は何かを暗示しているのだろうか。近い将来、もしかしたら気持ちの乗らない、でも断ることのできない、大きな仕事の依頼が舞い込んでくるのだろうか。
まさか、本当に「プ」大統領から…?もしそうだとしたら、私は戦争を終わらせるために、私の短かったクリエイター人生の全てをかけるつもりだ。もしかしたらプロジェクトの途中で私は死んでしまうかもしれない。それでも、もしそこに平和への可能性が少しでもあるのであれば、私はきっと、私の人生を投げ出してもいい、と思うだろう。
ま、そんな依頼がくることは、絶対にないと思うけど、ね。
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