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中華の奥に潜む事件の匂い

今日はどうしても天津飯が食べたかった。

『もし今日これを食べられないまま死んでしまったら
死霊となって街じゅうの《粗大ごみ回収シール》を剥がしまわり不法投棄の海にしてやるぜっ!』と言わんばかりの覚悟と使命感を感じていた。

、誰だってそんな日があるだろう。

しかし、行きたかったお店は定休日で、
且つ昼からは雷を伴った雨が降るということだったので
近くのバーミヤンに行くことにした。
(たぶんこれが人生初めて)

ドアを開けると鼻に中華の風が突き刺さる。
細かく嗅ぎ分ければラーメンに餃子、唐揚げといったかなりの強者たちの匂いなのだが、これらをまとめた匂いをここでは《中華の風》と呼ぶことにする。

案内された座席に向かう途中、黙々と五目焼きそばを食べるおじさんを見た。すごく美味しそうで、絶対的な天津飯のへ意志を少しぐらつかせたほどだった。
そのおじさんの卓上には五目焼きそばを筆頭に、
餃子・白米・スープが顔を並べており、中華の風を吹かしているメンバーの一人でもあった。

僕は着席し、真っ先に天津炒飯と餃子を頼む。
メニューの写真をみたらやはり揺るがぬ一択となった。
しばらくして美味しそうに輝く天津炒飯が運ばれてきた。僕の《天津飯欲》を見事に溶かしてくれたその天津炒飯には頭が上がらない。(とは言いつつもアツアツすぎて、口に入れるたびに上を向いて「ハフッハフッ」としていた。)

食べ進めていると厨房の方からヒソヒソと話している声が気になった。視線を向けるとそれはホールスタッフで
何やら神妙な面持ちで何かを話し合っている。耳を傾ける。

『あのお客さん戻ってきた?』
『いえ、見てないです。』
『どうしよっか…』

何事だ。

彼らの視線の先に目をやると、
入店してすぐに僕を誘惑してきた《中華の風》のメンバーのおじさんの席ではないか。

席には誰もおらず、
食べ終わった五目焼きそばと
少しだけ手をつけた餃子と何も手をつけていない白米とスープ、それと伝票が置かれていた。

座席に荷物もなく、
外に電話をしている人もいなかった。
そこからのバーミヤンには中華の風に混じって《事件の匂い》が漂い始めていた。

僕は自分の天津炒飯を食べながらこまめにおじさんのいた座席に目をやる。

______まだ帰ってこない。

半分以上食べ、餃子も食べ終わった。

______まだ帰ってこない。

全てを食べ終わり、お水のお代わりにいく。

______まだ帰ってこない。

かれこれ10分〜15分は帰ってこない。
僕が意識してからそれくらいだから、店員さんが気がついてからはそれ以上の時間が経過しているはずである。

その頃から僕の鼻には事件の匂いしか香ってこなかった。

この時代に食い逃げが起きるのか?
脳内で質疑応答をしてみる。

Q.お金をおろしにいっただけでは?
______それなら店員に一言声をかけるべきだ。

Q.電話をしにいったのでは?
______店の周りにいない。仮にそうだとしても一言声をかけるし荷物を置いておくべきだ。

Q.トイレでは?
______、、、それであってほしい。


僕はトイレへ調べに行こうかと思ったけれど、
それは店員さんがやることであり、僕が出しゃばる幕ではない。そして何よりお昼時のバーミヤンは混むのだ。
早く出なければと思った僕は気になりながらも会計を済ませ、店を後にした。

なので、悔しながらこの話はここで終わってしまう。

__________________


この真相を知っている人はどうか教えて欲しい。
中華の奥に隠されたおじさんの正体と、その真実を。
風となって消えたのか、はたまた______。
何事もなければいいが、、。

この一連を《中華の風と五目男事件》と呼ぶことにしよう。
長文のお付き合いに感謝する。

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