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一瞬で体育館にワープする電子音

散歩していたら近くの中学校からシャトルランでしか聴いたことの無い、「あの電子音」が聞こえてきた。
懐かしいけど好きではない、一発で思い出せるあの音。

学生時代の新体力テストはもちろん、サッカーの能力測定でもやっていたので僕にとっては嫌でも馴染み深い。

一定の間隔で一音ずつ上がっていく電子音、
その速度は約1分ごとに増加していくので
じわりじわりと心身ともに追い詰められていく。

その音は人間が作ったものとは思えないほど「情」というものが排除されていて、最終的に「フルコンボだドン!!」みたいな音声が祝ってくれる訳でもなく、かと言ってでっかい車の鍵や賞金パネルを手に入れることも出来ないまま、あの音はどこかへフェードアウトしながら去っていく。


集団の中で頑張ったとき、周りの友達からは「すごいな〜」などと多少の賞賛を浴びる時もあるが、走っている最中はすでにリタイアして話に花を咲かせている友達が異常に楽しそうに見え、「ああ、何してんだろう、、」と思ってしまう。
いっそのこと、リタイアしたらバラエティ番組のセットみたいに床がパカッと開いて落下し、粉まみれになるくらいじゃないと釣り合いを取れないんじゃないか、と当時の僕は不満を感じていた。(そこまでは思ってない)


だいたいモテるやつはリレーで足が速い子であって
シャトルランを根性で生き残るやつではなかった。


そもそもシャトルランという競技自体すこし特殊だ。
始まる前は広い体育館に沢山いたはずの人間が、
鳴り出す電子音と共に熱気と反比例で過疎化していく。
両端に沈んだ人達は何かを話してはいるようだが生き残り達の耳は単調な電子音だけを遠くで捉え、視野も前方の白線だけに絞られていく。
いつからかそこは生き残りを掛けたサバイバルみたいな過酷な空間と化していくのだ。
「みんなでゴールしましょうね〜」といった最近の風潮とは真っ向から逆を行く種目である。



なんとも変わっている、シャトルラン。
そんなことを考える僕の意識はいつの間にかあの日の体育館に連れ戻されている。______
嗚呼、なんとも恐ろしい、シャトルラン。

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