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哀しき進化

見慣れた商店街の一部が更地になっていた。
しかし僕にはそこがかつてどんな建物だったのか、
1ミリも思い出せない。
目の前にはヒントを教えてくれない油圧シャベルが1台ずどんと鎮座しているだけで、「あんた薄情だねえ」と言われたような気がしてショックを受けた。

僕は都会で暮らすようになって異様な早歩きになった。
いつだってどこかから逃げるように移動していて、
心地のよい足取りで歩けるのは人のいない夜だけだ。
なんてこった。明るい方がよく見えるというのに、
全くもって哀しき進化である。

危機感を覚えたのでもっと周りをよく見ようと決めた。
古い、新しい、眩しい、暗い、お洒落、ダサい、絵に描きたくなるもの。匂いとセットだと覚えやすいかな。
憧れの人の部屋へやってきたように、
細部に探究心を持って周りを読み取っていきたい。
知っているからこそ、『あれが無くなった』という本来のショックを受けられ、懐かしめるのだ。
そんな歳の取り方をしたいと思った。

カメラに頼るな、進化するぞ。

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