🍥燻製キャロットケーキ🍥
「だって…果物じゃないじゃん…」
などといった偏狭な理由で避けていたキャロットケーキだ。
妻の好物であること。素人でも簡単に調理できること。そして、ナッツとクリームチーズが夜な夜な私の枕元に立って「燻せ燻せ」と訴えかけること。
以上が、私が重い腰を上げキャロットケーキを作るに至った理由である。
早速、クリームチーズとナッツを煙で改造していこう。
溶けやすいクリームチーズは、冷燻にかけていく。チップは、ミズナラとリンゴに、栗を少々混ぜたものだ。
具体的なチップの分量と選定理由は…時の運だ。
ナッツは、50〜60℃にキープしながら、2時間程度の燻煙にかけていく。燻材は、サクラで3ターン。4ターン目に、ピートを加えて完成とする。
基本的な作りかたは、大人気パティシエ「えもじょわ」さんのものをほぼ丸パク…参考にした。
変更点といえば、クリームチーズを燻製。ピーカンナッツの代わりに燻製ミックスナッツ。ナツメグを抜くかわりに、カルダモンを少し多めに使用したぐらいだ。
しかし、卵もバターも使わないヴィーガンケーキをここまで膨らますとは…げに恐ろしきはベーキングパウダーの霊験である。
蛇足だが、話は遡って数年前。
はじめてのカップケーキ作りで、数グラムの分量を計る手間を惜しみ、生地に目分量でベーキングパウダーを放り込んで数十分後、オーブンを開けた私は驚愕した。
自転車のカゴから身を乗り出すETがごとく、メコモコと珍妙に膨らんだカップケーキが現れたのだ。
それ以来、材料、特にベーキングパウダーは、コンマ1グラムまで計ることになったのは言うまでもない。
お菓子作りは、素人の思いつきや目分量が通用する世界ではない。先人達の汗と涙、血や腑で作り上げられた魔境だ。
黙ってレシピに従っておけ。
忠告はした。それでも従えないというのならば、私が貴様の夢枕にベーキングパウダーと重曹を振りかけて、悪夢を縦横に膨らませてやる。とくと魘されるがいい。
呪いの膨らし粉はさて置いて、燻製クリームチーズと粉糖を混ぜたフロスティングをこってりと塗り、燻製ナッツをあしらって、それは完成した。
これは…もう、何というか、絶品と言うほかない。
…待てよ…
最高だが…何か、違和がある。そして、その正体にすぐさま思い至った。
名に人参を冠しておきながら、人参が主役に「まったく躍り出ていな」いのだ。
風味の序列としては、
1にシナモン
2カルダモン
34がなくて
5にけむり
といったところか。ランク外ではあるが、人参は確かに存在している。しかし、名題役者ではなく裏方として、である。
さては…名義貸し…か?
などと、絶品だったはずのキャロットケーキからキナ臭さが漂ってくる。
シナモンやカルダモンを矢面に立たせ、自らは安全圏でほくそ笑んでいる黒幕を思い浮かべ、私は心寒いものを覚えた。
今回、思い描いた煙の効果は得られなかったが、人参の悪意によって、煙に巻かれたような後味になってしまった。
この状態を、
食後の燻製という。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?