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師走のミネラルショー

noteの更新がとどこおった。

どういうわけか次から次へとやることが増えてゆき、noteがどんどん後回しになった。書きたいことはたくさんあるのに時間がどんどんすぎてゆく。

この感覚は、わたしのなかでは、この急に寒くなる時期とセットになっている。バタバタと忙しくしていること自体が、12月の冷たい空気の肌感覚になっている。

外では日常的にマスクをつけるようになって、冷たい空気の肌感覚も薄れたかと思っていたけど、そうでもなかった。忙しさと連動して、マスク越しに冷たさを敏感に感じるようになった気がする。

なぜかせわしない12月。12月は師走しわすとも呼ばれる。

わたしが中学生のころの話。授業に遅刻しそうになって廊下を駆け足で移動していたら、すれ違った国語の先生から
「師走でんなぁ」
と声をかけられた。

「師ぃゆぅのんは教師やない、ぼんさんや。いつも落ち着いてはるぼんさんも走らなあかんくらい、年の暮れはややこしもんやと、そうゆぅこっちゃ」

こんな調子で師走の意味を教えてくれていたのを覚えている。関西らしく、余分な一言がつづく。

ぼんさんもボンもおんなしやなぁ、ワッハッハ」

方言かもしれないので補足すると、関西では男児のことをボンと呼んでいた。わたしが子供のころ、男の子は見知らぬ大人から
「そこのボン、危ないさかい退いとりや〜」
などと言われたものだ。

師走に話をもどすと、その国語の先生からは平安時代の辞書にもそう書いてあると、この「僧侶が走る」説を教わった。特殊な読み方なので、なるほど仏教用語のようにも思えてくる。

で、気になって調べてみたら、平安時代の『色葉字類抄』にそう書かれているという。しかし、言語学的な根拠がなく、民間語源つまりこじつけであるらしい。あて字かもしれない。あて字に遊び心があっておもしろい。平安時代のあて字が現代にまで残っているなんてところも、さらにおもしろい。

◆◇◆

久しぶりに書きはじめたら、つい言い訳の前振りが長くなってしまった。

書きたいのは、タイトルにあるとおり、ミネラルショー。師走のこの時期に、毎年池袋のサンシャインシティでおこなわれる国内最大規模のミネラルショーだ。

昨年に行ったときもnoteに書いたけど、感染症対策への配慮の行き届いた運営には頭がさがる。

総入れ替え制のミネラルショー、スクリーン越しの会食、その後のオンライン会議。あとで振り返ると、前年までには想像もしなかったことばかり。こうした「新しい生活様式」には、慣れるしかないのだけど、きっと1年後には、もっと自然に「新しい池袋ショー」に馴染めているのだろうと思う。もしかしたら、もっと何か、海外からのオンライン出展とか、さらに新しい何かが加わっているかもしれない。

2020年12月20日付の拙note「池袋のミネラルショーに行ってきた。」より

さて、その1年後だ。わたしはもっと自然に”新しい池袋ショー”に馴染めただろうか。今年の池袋ショーには新しいなにかがくわわっていただろうか。

2年連続の総入れ替え制。今年はチケット用のアプリで予約した。予約や支払いがスマホだけでできるようになって久しいけれど、あらためて技術の進歩を実感する。と同時に、この技術に適応できなければ置いてけぼりになる。ゆっくりだけど、世代交代が進んでいる。

昨年も、入場を制限しているにしてはそれなりの混み具合だった。今年はさらに、もっともっと混雑していた。入場前にはすでに長蛇の列。地下鉄を降りて、さすが池袋は人が多いなと思っていたら、ほとんど全員がミネラルショーの会場に向かっていったので驚いた。

予約人数の上限についてはわからない。下手したら、4時間の総入れ替え制にしたのが災いして混雑しているんじゃないのか。そう思えるぐらいの混み具合だ。

挨拶をしておきたい出展者や、観ておきたいブースもあったのだけれど、この混雑でとてもとてもまわりきる余裕はなかった。あらかじめ連絡をいただいていた出展者のかたでも、話す機会がなかったりして、申し訳ない気がする。

このミネラルショーには、9月に転職した元同僚Kさんと、現在の同僚Mさんとのなかよし3人組(?)で赴いた。Kさんはその前の週末にわたしの個展に来てくれて、その時にミネラルショーに行きましょうという話になったのだ。

3人組でブースを見てまわって、ああだこうだと石をみて、おしゃべりして、あっという間に時間が過ぎた。

今回の戦利品は、見出し画像に載せた3つだけ(下に拡大して再掲)。右の一番大きなものが長石のひとつラブラドライト。その隣の小さなものがサファイア、そして左端がトルマリン。せっかくなので、それぞれについて書いておくことにする。

左からトルマリン、サファイア、ラブラドライト。

ラブラドライト

じつは別のコマーシャルネームで売られていたのだけど、紛らわしいのでここでは書かない。

数年前に退職した元同僚Nさんのいまの勤め先が西日本の石屋さんで、そのお店が出展するときいていたのでお邪魔した。これはそこで購入したもの。Nさんは会場には来ていなかったけど、ブースにいるかたを紹介してもらっていたので話がはずんだ。

6月にムーンストーンについて書いたとき、長石の種類についてもちょっと触れた。

長石とひとことで言っても、実はいろんな種類がある。固溶体といって、ちょっとずつ異なる成分のものが混じりあった状態で存在している。中途半端な組成であっても、ほぼ均一に結晶化したものもあるけど、だいたいは偏りがあり、連続的に組成が変わる。結晶ができるときの条件が微妙に変化することが多いからだ。

拙note「古代人のセンスが宿るムーンストーン」より

古代から知られるムーンストーンは、アルカリ長石のグループ。長石は、このアルカリ長石と斜長石プラジオクレースというふたつのグループに大別できる。ラブラドライトは後者の斜長石のひとつ。狭義のムーンストーンに似ているけれど、別の鉱物だ。

ラブラドライトは曹灰長石とも呼ばれる、暗めの色の火成岩によく含まれている。漢字で書くとわかるように、曹長石アルバイト灰長石アノーサイトの中間の組成のもの。厳密にいうと、均一な組成ではないので単一の鉱物種ではない。微妙に異なる組成の斜長石が重なりあっているので、虹色の干渉色が現れる。

モンタナサファイア

サファイアのなかで独自の地位を確立しているのが、このモンタナサファイア。米国のモンタナ州で採れるので、こう呼ばれているのだけど、じつは2種類ある。

ヨーゴ峡谷の岩盤から採れるものと、ミズーリ川の上流部など堆積物のなかから採れるもの。いずれも100年を超える歴史がある。小粒で地味な色あいながら、米国産の宝石ということもあって、根強い人気だ。

ヨーゴ峡谷産のものは、ブルー〜バイオレットのもの。今世紀初頭に閉山したので、基本的にあらたに市場には出てこない。非加熱だからというだけでなく、そのプレミアからも高騰している。

いっぽう、堆積物から採れるほうはイエローなどのファンシーカラーがメイン。市場で売られているものほぼすべてが加熱されている。ブルーは2度の加熱処理でつくられる。ルーペでも加熱処理の痕跡は確認できることがおおい。こちらは2015年に採掘が再開されて、観光とタイアップしたビジネスが人気だ。

仕事でおこなったウェビナーでちらっと話したのは、ヨーゴ峡谷のほう。

2021年7月のウェビナー「世界のサファイアをめぐる旅」より。
モンタナの州旗と州章でひそかに旗章学アピール中(笑)。

品質が低く加熱処理されているモンタナサファイアも、このところの色石ブームのせいか値上がりしている印象があった。今回、ここ数年にしてはかなりリーズナブルな価格で売られていたブースがちらほらあった。もしかしたら値崩れしはじめたかも?そのうちのひとつを自分用に購入した。

パライバトルマリン

宝石トルマリンのなかでも、もっとも高価で取引されているのがパライバトルマリン。銅に起因したブルー〜グリーンの色味。鮮やかなのはネオンブルーなんて呼ばれる。

もともと、30年あまりまえに見つかったブラジルの地名をとって、パライバトルマリンと呼ばれるようになった。今世紀にはいってからブラジル以外でも見つかり、どう呼ぶのかが問題になった。産地鑑別の難しさもあって、産地にかかわらずこう呼ぶことで、いまは落ち着いている。

トルマリンは鉱物のグループ名で、たくさんの鉱物種に分類されている。宝石品質のものはいくつかの種類に限られている。はじめは、パライバトルマリンはエルバイトというトルマリンだけだと想定されていたのだけど、のちにリディコータイトという別のトルマリンも存在していることがわかった。

通常、パライバトルマリンは蛍光性がない。クエンチャーといって、ふくまれている銅が蛍光をうちけすからだ。

リディコータイトのパライバトルマリンは、銅の含有量が比較的ひくく、希土類元素レアアースをふくむ。そのため紫外線をあてると蛍光をしめすものがある。

わたしがこれについて論文を書いたのが2017年。その後、香港のジュエリーショーで講演したときにも反響があって、見つけたよと蛍光の写真や動画をおくってくれる業者さんもいる。

そういったこともあって、わたしにはそれなりに思い入れのある石なのだけど、自分のコレクションとしては持っていなかった。

池袋ショーのあるブースで、モザンビーク産のパライバトルマリンがリーズナブルな価格で売られていた。店員さんに紫外線ライトを借りた。会場が明るくてわかりにくいけど、蛍光性があるように見えた。

「パライバはふつう蛍光しないんですけど、なかには蛍光する珍しいものもあるという話で、私もちょくちょく紫外線を当ててみるんです」

その店員さんは、こう言うといくつかトルマリンをケースから出して並べてくれた。いずれもモザンビーク産。銅をふくむリディコータイトは、いまのところモザンビークからしか見つかっていない。

このツイートに書いたとおり、帰ってから紫外線をあててみたらしっかり光った。きちんと検査しないと断言できないけれど、リディコータイトの可能性が高い。

4時間が過ぎ、会場には退場を促すアナウンスが流れる。

混雑したサンシャインシティをはなれて、3人で遅めのランチをとった。わたし以外の二人は池袋の近くに住んでいるのだけど、どちらも初めてだというタイ料理店。とても美味しい、アタリの店だった。

美味しいタイ料理を食べながら、食べ終わってもお水を飲みながら、おしゃべりが尽きない。

気がつけば夕方になっていて、店内はディナー営業の準備がはじまった。長居をしてしまった。料理店にちょっと申し訳なく思いつつ、店を出た。

店を出てから、評判のベーカリーに寄って買い物をしたり、思いつきでの行動も楽しかった。わたしはちゃっかり絵の題材を購入した。

思えば長らく、家族以外で3人以上の会食なんてしていなかった。わたしは大人数の集まりがちょっと苦手で、忘新年会も少人数のことがおおい。

Kさんとはしばらく会いそうにないので、
「良いお年を」
と、ちょっと早めの年末の挨拶をしてわかれた。

・・・おお、年末らしい。師走らしい。

昨年末は感染拡大まっただなかで対面の忘年会はおろか会食もしなかったから、久しぶりの感覚。

今年は国内ではちょっとおちついているけど、諸外国の感染状況は深刻だ。どことなく感染症の季節的な流行の気配を心配しながら、混雑したイベントと気のあう少人数での会食・・・もしかしたらこれが新しい”師走らしさ”の感覚として定着するかもしれない。


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