岸田首相の「育休・産休中のリスキリング」発言は何が問題か

1月27日(金)の参議院本会議での代表質問の中で、自民党の大家敏志氏が「育休・産休の期間にリスキリングによって一定のスキルを身につけたり、学位を取ったりする方々を支援できれば、逆にキャリアアップが可能になることも考えられる」と質問したことを受け、岸田文雄首相は「育児中など様々な状況にあっても、主体的に学び直しに取り組む方々をしっかりと後押ししていく」と答弁しました[1]。

これに対し、昨日のNHKの番組『日曜討論』では、野党から子育て中に学び直しを行うことは困難であるといった観点から批判が起きました[2]。

与党による代表質問は施政方針演説や所信表明演説の内容を受け、首相がその内容をより具体的に説明するための機会を提供するという側面を持ちます。そのため、今回の大塚氏の代表質問は、施政方針演説の中で少子化対策や学び直しを積極的に推進することを表明した岸田首相の意を体したものに他なりません。

一方、野党の批判はある面では産前や産後の女性、あるいは育児休業を取得する男性が子育てに多くの時間を割き、学び直しを含むその他の事柄に十分な労力を振り分けられないという現状を踏まえたものであり、産前産後休業や育児休業中の親を取り巻く環境を顧慮したものと言えるでしょう。

ただし、岸田首相の答弁の趣旨はいかなる状況であっても学び直しを志向する人はいるという前提に基づいており、そうした人々を支援するための制度の拡充が必要であることを訴えるものです。

確かに、子育てを行う人々の置かれる状況は様々であり、ある人たちは子育て以外のあらゆる事柄を断念しなければならないかも知れないものの、他の人たちの中には子育てのみに留まらず、多くの物事に取り組むゆとりがあるかも知れません。

これは、初めて子育てを行うのか第二子以降であるのか、配偶者やその他の家族が子育てにどの程度関わるか、あるいは自治体や企業などの育児への支援策がいかなるものであるかといった事項の組み合わせによって状況が異なることに由来します。

従って、「子育てに格闘している時にそんなことができるわけがない」[2]という指摘は蓋然的ではあっても、この例に該当しない人たちがいることは絶えず念頭に置かれなければなりません。

何より、子育て中に学び直しは困難であるとしてしまえば、こうしたことが可能な人たちの存在を無視し、あるいはその要望を等閑視することになりかねません。

国政に携わる人たちに求められるのは、子育て中の学び直しは困難か否かと問うのではなく、子育て中も学び直しの機会を持つ人たちがいることを考え、政策を立案し、実現することです。

間違っても、ある意見に偏り他の可能性を排除することがあってはならないのです。

[1]首相答弁に批判高まる. 朝日新聞, 2023年1月30日朝刊26面.
[2]野党が首相答弁批判. 日本経済新聞, 2023年1月30日朝刊2面.

<Executive Summary>
Is Children Leave a Good Opportunity of "Reskilling"? (Yusuke Suzumura)

Prime Minister Fumio Kishida's answer at the House of Councilors that the Government will support "reskilling" of person who takes children leave is blamed by the opposition parties. On this occasion, we examine Prime Minister Kishida's answer and its validity.

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