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「OPUS:星歌の響き」感想:最高にクオリティの高いBGM、別れる運命にある二人の物語、埋もれさせたくない傑作スペースオペラADV


美しい音楽、魅力的で自立したキャラクター、時代を跨ぐ物語。
宇宙を舞台にした、完成度の高い物語が発売されました。



※物語のネタバレはありませんが、序盤を中心としたスクリーンショット、動画はいくつか掲載しています


※2022年5月17日追記:2021年12月9日にラジオ出演し紹介も行いました!


初めに

台湾のデベロッパー、SIGONOによる最新作。
宇宙を舞台としたアドベンチャーゲームです。
とにかく傑作、今年No.1の作品と言っても過言ではないと思います。


簡単にゲームの背景紹介

主人公のリバクは、いわゆる貴族出身の身。しかし、政治的なしがらみや兄弟間の権力闘争の結果、一族を追い出されてしまいます。

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ヒロインのエイダは、「巫女」と呼ばれています。かつての大戦では、巫女はその能力から「生体レーダー」と呼ばれ、戦争では大いに重宝されました。しかし、大戦が終わると、巫女は戦争犯罪人として、徐々に大戦の責任を押し付けられ、世間から追いやられていきます。

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そんなリバクと、エイダ、そしてエイダをお姉様と慕うラミアが出会い、旅を共にし、そしてそれがどういう結末をもたらすのか。

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このゲームは、その旅の66年後、老人となったリバクが、その人生を追体験するゲームです。

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「龍脈」を巡る物語

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この世界には「龍脈」というものが存在します。
宇宙に散らばる龍脈には、膨大なエネルギーが存在する、鉱山のようなものです。
そのため、この龍脈を見つけるとその資源を得ることが出来たり、そもそも発見すること自体が偉業だったりするのです。

既に龍脈は多くが発見されていますが、まだ見ぬ新しい龍脈を探すため、冒険者や盗掘者など、一獲千金を狙う者が後を絶えない状態です。

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このゲームは、そんな龍脈を巡る争いで混乱が続く太陽系「山塊」を舞台としています。


リバクは、一族への復帰及び一族の復権を目的とし、この龍脈を多く見つけ、献上するために、護衛のカイトと旅をしています。

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一方で、エイダは別の目的のために龍脈を探しています
巫女であるエイダは、巫女の力で龍脈の位置を特定することが出来ます。
この二人が出会うことで、エイダは龍脈を探し、リバクが実際に龍脈内部で探索する、という関係性が出来上がっていくのです。

物語の中にはその他、神々の物語や龍脈を管理する機構、舞台となる「山塊」での龍脈を巡る過去の大戦の名残など、様々な思想や思惑、対立関係が入り乱れており、その関係性に巻き込まれながらも、リバクたちは旅を行うことになります。

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龍脈を求めるという目的は同じでも、リバクとエイダおよびラミアの最終的な目的は異なっています。
やがては、別れないといけません。
それは、物語が進むほど別れが近づくという意味になります。
その、別れは訪れるのか。もし訪れるなら、どのような瞬間に、どのような理由で、どう別れるのか。

そしてこの物語が、なぜ66年後のリバクの視点からなのか。
これらは物語を進めることで、全て明らかになるのです。

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自立した、言動に根拠のある魅力的なキャラクター

主人公のリバク、巫女のエイダ、そして紅楼の乗組員であり整備やハッキング、情報操作に長けているラミア。この3人が物語の中心人物となります。
紅楼というのはエイダとラミアが保有している宇宙船で、ゲーム中ではこの船に乗り宇宙を旅していきます。

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形としては、エイダとラミアが旅していたところにリバクとカイトが合流する形になるのですが、もともとエイダを敬愛していたラミアにとって急に介入してきたリバクは不快そのもの。

貴族的で、真面目で仲間思いな性格のリバクがエイダの信頼を得るほど、ラミアにとってはエイダが取られてしまうような印象となりリバクに対し嫌悪感を持ち始めます。一方でエイダはリバクやラミアの仲裁をしつつ、自身の目的の手がかりが見つかるとやや感情的に動いてしまうことも。
それは、当然ながら三人の衝突を生みます。

そのような衝突や仲裁を繰り返すような、三者三様の考え方と立場があり、それぞれが自分の目的のために同じ宇宙船に乗り、龍脈を探すという旅を続けているわけです。そしてとにかく、そんな衝突が起こるのが納得できるほど、この三人のキャラクターがしっかり立っていることがこのゲームの最大の魅力と言っていいと思います。

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物語自体は、リバクとエイダ、ラミアの共通の目的である龍脈探索にありますが、一方で例えばゲームシステムが変わったりするような、大きな物語の変化はありません。それこそ、探索アドベンチャーが経営シミュレーションに変わるようなことはなく、最初から最後までしっかりと宇宙探索のままです。つまりは、システムに変化がないのでゲームの魅力はほぼストーリーで形成されています。

その魅力の形成方法が、リバクとエイダ、ラミアという、それぞれのキャラクターがしっかりと形作られているところにあると思うんですよね。それぞれのキャラクターの目的と、その目的を追いかける理由がちゃんと示されているからこそ、言動に重みが出て、納得できるというか。

何かトラブルや意見の違いが生まれたときに、なぜそういった行動をするのか、またはなぜそういった行動が出来ないのか、という理由が描写されていると同時に、どんな場面で感情的になるのかというところが細かく表現されているので、人間性が深く理解でき、キャラクターへの愛着が沸きました。

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あと、このゲームの特徴として言えるのは、キャラクターが互いにベタベタと依存していないところがあると思います。ラミアはエイダのことを第一に考えていますが、一方で宇宙船である紅楼のためには冷静な判断でエイダの指示に反することもあります。
お互いが役割分担をして仕事を行い、それぞれが自分の仕事を全うすることで、例え嫌悪感を抱いている相手でも頼らざるを得ない、協力せざるを得ない、それによる仕事への連帯感、仲間意識の醸成が見て取れました。

「攻殻機動隊」の公安9課のように、スタンドプレーが生むチームワークというか、そこまではいかなくとも決して馴れ合いではない関係が、非常に好みでした。全員が自立しているとともに、そんな馴れ合いをしているような状態ではない、甘えられない旅であるという印象が強かったです。

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エイダとラミアの関係は物語中かなり強固なものに見えましたが、それも「なぜラミアはエイダを敬愛しているのか」という理由が示されたり、また、ラミアが「エイダが離れていってしまったら」というような状態についても冷静に考える部分もあり、いつまでも甘えていられないという、人間としての感情がリアルに表現されていると思いました。

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主にこの3人で物語が動くからこそ、この3人の会話が多くなり、必然的に3人を深く知ることが出来ます。

一方で、リバクの護衛であるカイトやエイダを助けてくれるラッセル先生、エイダの師匠であった紅やリバクと敵対するマフィア、リバクを追放した一族など、サブキャラクターもまた強い個性を発揮しており、物語を彩ります。

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彼らもまた、それぞれがそれぞれの考えを持ち、主要キャラクターに関わってくるため、独立した人間としての存在感があります。


特にやはり、このゲームの設定として「過去に龍脈を巡る大戦があった」という点が大きいと感じます。自分より年長者はそれを体験しており、かつそれによりリバクやエイダ、ラミアへと影響を与えているという世界観が、時代の異なる二つの物語が想像できました。

これがまた、リバクたちが直面しているのが「これから起きる物語」だけではなく、「過去に起きた物語の延長」であるという印象を生み、時代を跨ぐ物語、過去の人物との繋がりを生むという重厚さを生み出していました。

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シンプルながらバランス良く、運要素もある宇宙探索

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宇宙船での探索は、燃料、装甲、探査装置、お金のリソースを管理して行うこととなります。

宇宙を移動するには燃料が必要で、その燃料は探索したり補給施設で購入することで手に入ります。燃料がなくなると移動できずゲームオーバーでしょうか、その事態に陥らないようにしていたのですが少なくともマイナスの要素になると思います。
また、装甲は0になるとゲームオーバーです。宇宙探索中は、様々なランダムイベントが発生し、時には攻撃を受けることもあります。その際のために、装甲を補充しておくことは大切です。
探査装置についても、龍脈などを探索する際に必要です。これが無ければ探索できず、何も得ることが出来ません。燃料などをリソース管理しても、目的地で探索が出来なければ意味がありません。

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右上の数値が各リソース



基本的には、燃料を消費して目的地へ移動→探索やイベント発生→探査装置を消費してアイテムゲット→アイテムを売却しお金を手に入れ、燃料補充、宇宙船強化...を繰り返していきます。

燃料や装甲、探査装置は宇宙に漂う補給施設にて購入が可能です。つまるところ、お金が無くならない限りは永遠に探索できるのです。一方で、このゲームなかなかお金が貯まらない、良いバランスが作られており、「燃料を消費して先に進むか」「補給できなかったことを考え一旦戻るか」など悩ましい選択を迫られます。

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「探索すれば燃料や売却できる物資が手に入るかもしれないから先に進む」か、「もし見つからなかったらもう戻れないから一旦戻って準備しなおすか」などを考えられるので、自己判断が求められ、適度な緊張感で飽きずに遊ぶことが出来ました。

また、イベントにはランダムな数値でイベントの成功・失敗が判断される要素もあり、これもまたリソース管理に大きくかかわってくるので、自分の欲望との折り合いをつけるのが大変かつ、面白い要素でした。

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ランダムな数値が成功値を超えなければイベント失敗


この移動というシステムにより、ただただ物語を読むだけのゲームでは無く、自分でちゃんと選択して様々な地点に移動するという実感が生まれたのは、飽きさせない要素として重要であったと感じました。

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66年後のリバクの視点からのテキストも興味を引く



ストーリーと連動した、「歌」による謎解き

「巫女」であるエイダが「龍脈」を発見するため、そしてその龍脈での探索には「歌」が欠かせません。

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それはエイダの過去にも関係することなのですが、この「歌」による謎解きがまた、ゲームを彩ります。
いわゆる、扉や仕掛けを動かす「スイッチ」としての役割を持ち、歌の力で探索を進めることとなります。

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この謎解き、パズル自体の難易度は低く、詰まることはないと思いますが、しかし巫女の力、歌の力を実感させられるには十分でした。このような仕組みだからこそ、巫女がいなければ探索が出来ないという関係性が強化されていた気がします。



他の追随を許さない圧倒的なBGM

「音」「歌」を題材としているゲームであるのはもちろんであり、そこに力が入っているというのはいわば当然ではあるのですが、それにしてもBGMのクオリティがAAAタイトル以上でした。

このゲーム自体、ほとんど「追われる身」だったり、キャラクターには物悲しい背景があったりで、ポップなシーンは少なく、どちらかというと寂しい、切ないシーンが多いのですが、逆にそのようなシーンがほとんどだからこ音楽に統一感が生まれているのかなと思います。
特に、ゲームをクリアした後に聞く主題歌は、鳥肌が止まらないほど感銘を受けました。



実は私、このゲームを偶然見つけて、評判が「圧倒的に好評」だったからやってみたものの、第1章ではそんなに面白みは感じなかったんですよね。地味な選択肢と、難しい文化的な用語に読めない漢字、スピーディーに動かないキャラクター...。「あれ、ハズレのゲームかも」そう思ったときに、下記のシーンのBGM「RED CHAMBER」に一気に心を奪われました。

物語的にも勢いのあるシーンであるのですが、このBGMの壮大さ、美しさ、かっこよさ、全てに注意を引かれ、一気に物語にのめり込みました。
丁度このシーンをプレイしていた時、ちょっと眠いな...くらいの気持ちでプレイしていたのですが、全身が熱くなって脳が汗をかくような感覚に陥ったんですよね。本当にかっこよく、美しい音楽が流れることで、ここまでぐっと引き込まれることに驚いたとともに、この時点でこのゲームのBGMは探してもそうそうないレベルのクオリティであると確信しました。

そして何もこのシーンの1曲だけでなく、ゲーム内のここぞというシーン、物語の核心に迫るようなシーンやキャラクターの心情の深いところが描写されるシーンでは、耳に残り、かつ物語をよりエモーショナルに昇華するBGMが流れていたんですよね。
ところどころでの素晴らしい音楽は、一瞬物語への没入感が削がれるくらいドキッとする魅力に溢れており、そしてすぐに物語へと、一段も二段も深く没入できるようになるんですよね。
ある意味ではニーアシリーズでも体験したような、物語を食ってしまうレベルの質の高いBGM。間違いなく様々なゲーム音楽の賞を多数受賞するものであると思います。
願わくば、いつかオーケストラで聞いてみたい音楽ばかりでした。

発売3週間弱で既にゲームイベントのAUDIO部門最終候補にノミネート



「これしかない」と思わせるエンディング

ネタバレになるので詳細は書きませんが、最後の最後までどうなるのかわからない物語でした。ハッピーエンドなのかバッドエンドなのか、どういった終わり方なのかは、「おそらくこうだろうな」という予想がしにくいものでした。
しかし、その最後のシーンを見てみれば、「音楽」「映像」「物語」全てにおいて「これしかない」と思えるものでした。全ての思い出や伏線、仕掛けが綺麗に収まる瞬間は、まさにパズルの最後の1ピースがハマるうえに、完成したパズルの美しさに息を吞むような感覚に陥りました。

これはぜひ、プレイして体感していただきたいです。
まさに100点、最後まで完成度の高いゲームでした。

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現代的で秀逸、魅力的な翻訳

素晴らしいゲームでも、翻訳がイマイチであればその魅力まで辿り着くことは出来ません。
しかしこのゲームに関しては、むしろ上手い言い回しの翻訳に驚くような、質の高い翻訳を体感することが出来ました。
特に、口が悪いラミアの翻訳は秀逸で、非常に魅力的でした。

一方で、翻訳前の時点で難解な中国語の物語用語は一見して理解できるものとは言い難く、またところどころ誤字脱字も散見されることから、完璧な翻訳ではありません。しかし、それは物語の魅力を阻害するまでは至っていないと言えると思います。読めない漢字や理解が難しい用語も出てくると思いますが、鍵となる用語はキャラクター達がピンポイントで解説してくれる印象でしたので、物語の設定を完璧に理解するのでなければ問題ないと思います。

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やや難解な部分も



終わりに

「OPUS」は過去に2作品発売されているシリーズ物のようですが、この作品とおそらく直接的な関係はなく、単体で遊ぶことに何の支障もありませんでした。

最初は地味なゲームかな、という印象でしたが、リソース管理の駆け引きやランダム性のあるイベント、お金をどう捻出するかなどのシステム的な面白さ、そして丁寧に描かれた人間関係とキャラクターの魅力が素晴らしく、夢中になってプレイしていました。
何より音楽の魅力が圧倒的で、エンディングテーマを聞くと、ゲーム内のとある情景が目の前に浮かびます。それくらい、強い印象を受けました。

もっとゲームの世界に浸りたく、クリア後にはゲームの中で出てくるとある「花」の種が売っていないか検索したりしました。

過去作も既にOSTと一緒に購入したので、早々に遊んでみようと思います。
あと、出来ればグッズも出してほしいですね。これだけキャラクターに魅力があるゲームなので、関係するグッズなんかがあったら日本からでも注文してしまうと思います。

過去作を楽しむと同時に、おそらく今作がOPUSシリーズの最終作ではないと思うので、次回作を楽しみにしていきたいと思います。

「OPUS:星歌の響き」、本当にお勧めです。
こんなに埋もれさせたくないゲームは、初めてでした。

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