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書評 #77|ネメシスの使者

 多様な視点と価値観。換言すれば、白も描き、黒も描く。その中間に存在する罪と法の濃淡を中山七里は巧みに描く。

 懲役とは。極刑とは。個人の感情も混ざり、懲罰や更生のあり方について読者を思考へと導く。被害者と加害者。そして、家族をはじめとした、その周辺にいる人々にまで罪は侵食する。一面的ではなく、多面的に罪を見つめる。

 『ネメシスの使者』は作中で表現されたように「システムの隙間に爆弾を仕掛ける」ことによって制度の間隙を浮かび上がらせる。そして、世の中で最も悪辣と評された「自覚のない悪意」。情報技術の発展は匿名性の浸透でもあり、悪意の表面化をももたらした。

 浮き沈みはあれど、消えることのない罪。それは人間が生み出す歪みとも言える。その人間を守る法に正解はない。しかし、答えがないからこそ、考えることを止めてはいけないと思い知らされる。


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