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書評 #74|護られなかった者たちへ

 社会の膿とも呼べる、歪みを『護られなかった者たちへ』は描いている。作中において核を成す貧困というテーマ。それを「臭い」という言葉を使って表現したことが強烈な印象を残した。腐敗する風景は眼に浮かぶよう。当然と言えるが、人間によって構成される社会も生き物であることを実感させられる。

 膿と呼んだが、作中に登場する人物たちに善悪といった評価軸に振り分けることは極めて困難だ。言い換えれば、人間はその濃淡の中で生き、外的要素によって貫かねばならぬ正義が変わることも見せつける。「真面目」という言葉には清く、無垢な印象を与えるが、「真面目だからこそ罪を犯す」というフレーズは清濁を併せ持つことこそが真理であり、世を渡る上で必要不可欠なのかと感じてやまない。

 読み終えると、貧しさの中に豊かさがあり、豊かさの中にも貧しさがあることに気づく。それは精神的なものであり、一概には言えないが、考えを何層にも折り重ねたように重厚だ。善人が殺されるに至った理由を探る冒険は幾重の深い山と谷を駆け抜ける。終盤には想定もしないような風景に多くの読者は巡り会うのではないだろうか。


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