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書評 #49|六人の嘘つきな大学生

 『六人の嘘つきな大学生』は読者参加型のゲームのようだ。ハイテンポで進む物語は読者の想像を超えていく。振り返れば、浅倉秋成の掌の上で転がされていたことを自覚する。

 「表と裏」は鍵を握る言葉だが、本著の真理はより深くに位置する。善悪。明暗。人間は時に自らをも含めて物事を分類し、その行動に囚われ、執着する。しかし、その行いは突き詰めれば、不可能なことではないか。人間はそこまで単純ではないからだ。表現すれば「灰色」。その色を分類の象徴でもある就職活動をテーマに描き出す。

「透明な銃で透明な敵を撃ち続けていたら、思いのほか悪くないスコアが手元に表示されていたというような話で、そこに喜びはあっても具体的な根拠や確信は存在しない」

「どこまで嘘つけるかって勝負してるとこあったよな、正直」

 これらの言葉は僕たちが生きる日々と、そこで求められる能力の一面を的確に表現している気がした。それが「一面」であるからこそ、本著はその奥深さを湛えている。

 リクルートスーツに身を包んだ大学時代。「自己分析」という言葉に違和感を感じたことを昨日のことのように思い出す。さらに遡れば「人は善悪の両方を持つ」と当時から思い、意識を現在に戻せば、そんな感情は忘れていた。人によっても、状況によっても、その受け止め方は変化する。そんな思考は成熟を意味するのだろうか。

 『六人の嘘つきな大学生』はジェットコースターのような体験だ。時に読む手を止め、表紙と背表紙に視線を注いでもらいたい。気まぐれな空のように、その時々で感情の移ろいを楽しめるはずだ。


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