書評 #66|フットボール代表プレースタイル図鑑
同じ人間がプレーしながらも、各国による違いが浮かび上がる。もちろん、個人の技量にも影響を受ける面は大きい。しかし、それ以前に各国固有のサッカー文化の成り立ちや歴史に触れ、マクロとミクロの視点で語られる考察は読者の興味を離してやまない。
「プレースタイルは勝つための合理性と国民的な嗜好性から成り立っている」
この言語化は霧が晴れたようにすがすがしい。規律の自由の間で揺れるドイツ。国の衰退と合わせて堅守速攻の特徴を作り上げたウルグアイ。「ハードワークと速度感」「素早いミドルプレス」「膠着化」と評した日本の強みも的を射ている。元来の性格に環境や偶然という名の要素を掛け合わせて生まれる個性は人間と同じだ。そして、好きなことと得意なことが必ずしも同じでないことも人間らしい。
西部謙司は「多様性」が強化に欠かせないと説く。それはフランスやスイスに象徴されるが、海外に選手を輸出し、得た経験や知恵を輸入する日本も例外ではない。レベルの高いチームでチームプレーヤーとして貢献していく術を学んだクロアチアの選手たちも同様だ。
しかし、強化に正解はない。多様性は時に混乱を生む。成功は自信を生み、時に過信となって失敗をもたらす。成功しても、失敗しても。変わるものがあり、変わらないものもある。「国民性」という言葉に集約できず、個人の影響や国内外の情勢によっても影響を受ける。サッカーと同じく、プレースタイルもまた大河のように雄大だ。
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