書評 #58|検事の信義
印象に残った言葉がある。
「機械的に法律を適用することが、必ずしも正義だとは限らない」
『検事の信義』は水と油が分離するかのような狭間を描いている。原則に抗う姿勢こそが、作品と主人公である佐方貞人に魅了される要因だろう。常人が踏み得ない一歩を差し出すことは勇気であり、希望でもあると感じる。そして、それは時に忍耐でもある。
「俺は、恨みは晴らさないが、胸に刻む主義だ」
佐方の上長である、筒井義雄の言葉は大木の年輪のように重厚であり、厳かである。威厳は強引ではない。引く勇気は懐の深さである。法を舞台に味わい深い人間模様を楽しんでもらいたい。
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