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書評 #81|復讐の協奏曲

 『復讐の協奏曲』でも、主人公の御子柴礼司は奔走する。その姿はさながら探偵のようだ。

 魔の手は意外な人物へと手を伸ばす。仲間という感情的な言葉が使われることはないが、部下でもある日下部洋子のために身を削る。シリーズにおいて一定の心理的距離が存在した保護者と被保護者。その壁が壊され、距離が縮まったことによって過去の作品とは異なる趣を湛えている。それは冷血漢が見せる人間味と成長の証でもあり、作品に深みをもたらす。

 本作は独立しているが、同時にシリーズを貫く一つの事件を起点としていることによって壮大さという名の魅力を生む。突破口を見つけ出す論理の力。それは御子柴の天性のものであるが、人間を見つめ続けた贖罪による副産物でもあろう。読者の期待や想定を超え続ける中山七里の文才にも重なる。いつまでも続いてもらいたいと思うシリーズだ。


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