書評 #94|もえるバトレニ モドリッチと仲間たちの夢のカタール大冒険譚
クロアチアという国と紅白のユニフォームを身にまとう選手たちをより身近に感じさせてくれる。延長戦やPK戦も含めた異常なまでの勝負強さに象徴される「粘り」を連想するが、それは歴史や経験から培われたものと認識させられる。
「クロアチアは小さい国かもしれないが、勇敢で闘争心があり、献身的で全力を尽くす国民なんだ」
数々の戦いを眼にし、クロアチアに抱く印象と合致する言葉に初めて出会った気がした。クロアチアを率いる、ズラトコ・ダリッチの言葉は像の輪郭を濃くする。
名のある選手たちばかりだが、モドリッチのような脚光を浴びることが少ない選手たちにも光を当てる。その力量はもちろんのこと、人間味にあふれる多くのエピソードはどれも新鮮に映る。全員がそうとは思わない。しかし、
「とにかく仕事を得たのならば毎日黙々と働くことだ」
「国を懸けて戦う意識」
「私たちは即興性と創造性をベースにして生きる国民だと思うんだ」
などの言葉を読むと、勝利と成功は環境や努力と密接につながっていると感じずにはいられない。国民性にばかり眼を向けてはならず、実戦で使用されるべき「ファンクショナル・テクニック」の習得に育成段階から取り組んでいることもクロアチアの強さを支えている。
学ぶことが多い。それは日本のサッカーでも、日々を生きる上でも。そんな思いが読後にじんわりと身体中に広がる良書だ。