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食レポ|清水港 みなみ

 腹は満たされていた。しかし、足は自然と「清水港 みなみ」へと向いた。駅を抜け、シティホテルの前を通る。人気の薄い路地にその店はあった。

 華奢な階段を上り、こぢんまりとした空間が僕を出迎えてくれた。大勢の人だかりを予想していたが、並ばずに入店することができた。外気を身体にまとってきたせいだろうか。肌に汗が浮く。

 女性ばかりのスタッフ。その笑顔と透明感のある声が心身の火照りを拭ってくれる。本日の日替わり、「鮪三昧丼」を僕は注文した。二日で三食目のマグロ丼。静岡で日常を過ごしていたとしても、その味わいは飽きることを想像させない。涼やかで濃厚なマグロの数々はこの旅のハイライトと表現できる。日常からの振れ幅を作りたかった。そして、マグロ丼はその象徴だった。

 腹に空白はほとんどない。しかし、間隙を縫うように中トロ、赤身、ハラモ、たたき、炙り、すきみがさまざまな角度から押し寄せる。どんどんと減っていく丼。特に漬け炙りのまろやかな口当たりは僕の舌を震撼させた。

 静岡で過ごした三日間。「清水港 みなみ」によって旅は至高のクロージングを果たしたと言える。


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