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書評 #61|検事の死命

 『検事の死命』は現実的である。言い換えれば「生々しい」。主人公である佐方貞人の人間性を丁寧に描いていることはもちろんのこと、登場する人々の心の機微が文字として浮かぶ。そこには清濁がある。影が差すからこそ、光の美しさや力強さに眼が奪われる。そんな陰影に感情が移ろう。

 そこに意志があるからではないか。正義の定義は千差万別だろう。その正義を果たそうとする猛々しさが引力として読者の心を引き込んでいく。「届かない手紙」といった舞台設定も秀逸だ。突飛とまでは思わせずも、確実に読者の好奇心をくすぐる。

 柚月裕子の文体に眼を落とすと安心する。確実に存在する刺激にまたも触れた。


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