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「詩 その他」から分離して、詩のテクスト情報を掲載します。
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#超短編小説

水を見ず自ら蜜をほどく

水を見ず自ら蜜をほどく

 私達の内に、私達の表面以上の何かがあるだろうか?《魚達は群となり、花やクラゲと戯れている》私を見る時、少なくとも二つ以上の間隔が必要だ。《間合いが辺りに触れていて、クラゲは螺旋の様に捻じれている》つまり、私が鏡を見るのに充分な距離、《魚は氷肌から出る事は無く玉骨は決意を知らぬかの様に踊っている》そして鏡によって自動的に二つに分裂する。《だから魚達は触れられそうになると逃げて行く》素顔は幻に似てい

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黄金に付いて

黄金に付いて

 今、疲れた黄金は凍えて横たわっている、男は思った。逆らえない重力により幾層もの空気の塊を滑り、腐葉土の上に落ちて、微生物と愛し合うのだ。それは思い出されるもので、既知のもので、運命のもので、黄金の宿命だ。空が青から褪せて行く様に、黄金は震えていて、今、その価値の衰退を味わい尽くして眠るのだ。
 今、生まれた黄金は微笑み、ほぼ、歌っている、女は思った。抗えない浮力により呼ばれた風は寝間着を舞い、う

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現実の心象

現実の心象

 感傷になるには安過ぎて、享楽になるには煩わしい、運命と呼ぶには無関心な呪縛が私達の歌を奪っている。《センチメンタルは熱燃料、たばこ一本で灰になる》
 言葉は途轍もなく軽い。「喜び」は温もりが欠けた透徹で、「虚しさ」は気高さを真似る嗚咽だ。「美しい」と云った呂律はテンポと響きを喪失して、吠える帳は気配だけが漂う侮蔑による影絵の様だ。禿げる言葉を投げかける不穏さは、君に対して不遜ではないのか。跳ね返

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