逃避行
ここは夢の中なんだろ?と君がしたり顔で言った
そう、ここはきっと夢の中。僕が僕であるために僕が作り出した妄想、そして彼の妄言、だから僕ははにかみながらこう言うんだろう、「ほっぺた抓ってよ」
君は自分の頬をつねる
僕は私の頬をつねる
痛い、痛い、痛い
心は、空っぽ、空虚、絵空事
ここはさ、現実だよ。と君が言うけど、君の顔はテレビの模細工みたいに隠された。君が誰だか僕にはわかんないよ。だから僕は言うんだ「ほっぺた抓ってよ」そして君が僕の頬をつねって、僕が君の頬をつねる
痛がる姿を横目に僕の頬はゴムみたい。なんの痛みも感じられない。だってここは夢の中。だから君の頬はまるでりんごみたいに腫れ上がる。君が泣き叫ぶ。抵抗するように暴れまわる。その拳が僕に降り注ぐけれど、痛くない、痛くない、痛くない。
だってここは夢の中。それとも現実??
コーヒーとミルクが混ざりあうみたいに、私と僕が混ざり合う。拳が僕に降り注ぐ頃、私には何が与えられている?痛みがないけど痛いのに、痛いの、に
ここはどこ?と君がいった。ここはどこだろう。君の顔が見える。眼鏡をかけて、口ひげをはやした、汚らしい顔。ここはどこ??そして私は君を殴る。君は痛みを感じない。そして君が私を殴る。僕は痛みで泣き叫ぶ。桃が弾けるみたいに、爆弾が爆発するみたいに、僕の心は破裂した。そしてその音がまるで天使のラッパみたいに、年末の鐘の音みたいに幾億年先の未来にまで響き渡る。そして世界は一度暗転する…
―さぁ、"僕"は帰らなくちゃ、
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