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【闘病記】「私」が『私』を忘れた日【ノンフィクション】1

1. はじめに

私の身に起こったことを、ありのまま綴ります。
私が覚えている範囲と、私が書いた日記と、メモと家族の話も合わせて。

何を言っているの?と思う方もいると思います。
そんなときは私の「#自己紹介」記事を読んでからの方が、分かりやすいかと思います。

これから話すことは、人によっては信じられないかもしれないし、作り話だと思う方もいるかもしれません。

私は、同じ境遇の人や似たような悩みを抱える人に届いたらと思います。

話を始める前に、このお話は、誰にでも起こりうることだということを記しておきます。


2. 知らない人たち

目が覚めたら、床に横たわっていました。

毛布を頭までかけられていて、少し寒くて、身体中痛くて、なんでかなあ?と思ってモゾモゾ動いたんです。

私の腕、長いな…?手も大きいし…この毛布って家にあるやつだ。こんなに小さかったかな…?

ぼんやりしていた意識の中、聞こえてきたのは誰かの話し声です。
『どうする?このまま寝かせておく?』
『起きるの待つしかないでしょ。これでまた忘れてたら…どうしようもないけどさ』

すごく聞いたことのある声。でも何か違う。それに、寝かせておくって、私のこと?どうしようもないって何が?
どきどきして、毛布から出るのが怖くて、でも顔を見なきゃいけない気がして。私はそっと起き上がりました。

私の、家。……本当に?
フローリング、カラーボックス、ソファー、毛布……私が知っているもの。

たくさんのぬいぐるみ、小さい子供用の服、白髪まじりでミディアムヘアの知らない女の人、20代前半くらいの女の子……私が知らない、人たち。

眉を八の字にしてこちらを見ていました。
知らない人が、家に居る。
そもそも私の家?
知らない人に見られている。


こわい、

こわい、

こわい、こわい、こわい、

逃げなきゃ。


戸口は塞がれている、相手は2人、残る手段は。
庭に出る勝手口。

不意を突いて勝手口に向かいました。手足が震えて力が入らなくて。
やっとたどり着いた勝手口から見える庭は知っているようで、何処か違うように見えて。

外に出るのが怖くなって鍵を開けるのを手間取っていたら、2人が私の腕を押さえつけました。

「逃げないで、大丈夫だから、怖くないから、怖いこと何もないから、あなたの家だからね、分かる?あなたは「はる」だよ。お母さんだよ。「はる」の家だよ。ここにいて」

白髪まじりの女の人が言いました。
私は怖くて何も言葉が出なかった。本当かどうかわからない。
抱きしめられたけど離して欲しくてもがいて、もがいて、もがいて。

知らないけど、知っていると気づいてしまいました。

しわくちゃになった手は、いつでも少しかさついた手のひらの温かさは変わらない。

大好きなお母さんのちょっと低めの声。

白髪まじりの髪は、お母さんのくせ毛がそのまま残ってる。

知らない人。だけど、知ってる人。
私の大好きなお母さんだ。


「ごめんなさい、お母さん、お母さんだよね。ごめんなさい。怖かったよ。どうしてこんなことになってるの?お母さん、お母さんが居る。お母さん」

11歳の私は、お母さんがそばにいて安心したよ。嬉しかったよ。


3. 11歳の私

私のそばにいた女の人たちは、私のお母さんと、なんと一番下の妹でした。
彼女とは6歳差。私が小学6年生の時、妹は保育園だったはず。
あんなにぷくぷくだったのに、綺麗な女性になったのね。

私は…私は?今何歳?今何年何月?

「今は2022年2月4日。はるは28歳になったんだよ」

いつの間にか、17年経っている。どうして。私はなにかの病気なの?
頭がおかしくなってしまったの?

また震えがきました。こわい、こわい、息がうまく吸えない、苦しい。
私は11歳なのに。もうすぐ誕生日で、もうすぐ卒業式で、4月には中学生で…

私はもう中学も高校も全部全部、過ぎ去ってしまった…?
何も思い出せない。どうして。何があったの?思い出したい。

過呼吸を起こしていました。苦しくて、苦しくて、目が閉じてしまいそうで。
目が覚めたら元に戻っていないかな?11歳になっていないかな?

夢だったらいいのに。


4. 身体は28歳、心と記憶は11歳

また毛布の中で目が覚めました。
知っている毛布。見慣れたフローリング。聴き慣れた声。

自分の身体だけ、異物に感じました。
成長した手足、丸みを帯た身体、見慣れない服、趣味じゃない。
でも憧れていた、お姉さんの服。

夢じゃなかったんだなと、どこか諦めに似た気持ちが湧いてきました。
これから私はどうなるんだろう。
頭のおかしくなったであろう私は、どうなっていくんだろう。

怖くて、泣きたくて、逃げ出したくて、でも11歳の私はどこにも行けなくて。

それでも私には家族がいます。
お母さん。お父さん。
おじいちゃん。おばあちゃん。
2歳下の妹と6歳下の妹。

家族は、変わっていなかったことに、本当に安心した。
大好きな家族が私のそばにいてくれたらそれでいい。
身体は28歳で、心と記憶は11歳で。

何から手をつけてどうしたらいいのかなんて、何にもわからなくて怖いけど。
私は、優しい家族の気持ちに応えたい。
大丈夫だよ、って言ってくれる家族に、笑顔で「うん!」って言えるようになりたいよ。


あとがき

忘れもしない2022年2月4日。私が私を忘れてしまった日。
すべてが怖くて信じられなくて、頭がおかしくなってしまったのだと絶望した日。

自分で書いていても、信じられないような出来事だなと思います。
11歳の記憶と、28歳の身体を受け入れることはまだ出来ません。
きっと家族もそうです。

2022年2月4日。この日からたくさんのことがありました。
エッセイを書くには長すぎて、書き終わるのはいつになるやら。
でも私の病気は未だに治っていないので、きっとずっと、生涯書いていくんだと思います。

私のありのままの生活、人生が、だれかの記憶に残ったら。
私がまた忘れても、あなたが覚えていてくれたら。
そんな願いを込めて、これからも書いていきます。


きっといろんな意見があると思うし、いろんな感じ方があると思います。
私は知りたいです。あなたの気持ちを知りたいです。
素直な感想を聞かせてくださいね。

同情も憐れみもいらないけれど、「はる」っていうこんな人間がいるんだよって、知ってくれたら。
また忘れちゃっても、私はまた頑張れるから。

また自分のことを書きますね。
次回まで時間がかかるかもしれませんが、綴っていきます。

あなたの記憶に、「私」が残っていたら、「私」がちゃんと生きていた証です。 どうか、覚えていてくれますように。