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うつくしい人 〜読書感想文〜


①はじめに

「自分は何が好きなんだろう」
「自分はどんな仕事をして、どんな風に生きたいんだろう。」

みなさん一度は「自分」について
深く考えたことがあるんじゃないでしょうか

自分の気持ちについて答えを持っているのは自分だけ
考えれば考えるほど
周囲の人の話を聞けば聞くほど
わからなくなって深みにはまる

特に20代後半~30代の女性は結婚や出産、キャリアアップなどで
ライフスタイルが変わり、自分を顧みる機会が多くなると思います

今回私が紹介する西加奈子さんの「うつくしい人」は
そんな悩める女性達に寄り添ってくれるような小説です

読み終わった後は、自分探しに悩む人の孤独感を癒してくれるような
悩んで暗いトンネルにいる状態から
一筋の明るい光が見えてくるような
そんな気持ちにさせてくれます

②特にこんな人に読んでほしい

・自分らしさがわからず悩んでいる人
・周囲とライフスタイルを比較し、私なんて…と考えている女性
・自分自身を好きになれない人

③感想

主人公は30歳くらいの女性です
瀬戸内海のリゾートホテルへ向けて
一人で旅行する場面から物語はスタートします

周囲の目を気にして、溶け込むように生きてきた彼女は
仕事上のささいなミスをきっかけに
心が飽和状態になってしまいます

自分に中身がないことに気づき
絶望し、引きこもり状態になるのですが
旅行雑誌をのふとめくったページに目が留まり
勇気を持って旅行を決意します

その旅行先のホテルで出会う
さまざまな人たちに刺激をうけ、感化され
「自分」を理解し始めるといったあらすじです

このホテルに集う登場人物はみな一様に個性的です

主人公はそつがなく、内側で自分の感情に蓋をしている人間
一方ホテルで出会う人たちは
世間でういているような自由気ままで変わったな人たち

完璧であることを良しとする主人公は
最初こそ彼らのことを見下していましたが
徐々にその愛すべき個性に救われていきます

西加奈子さんは、心の描写を句読点で表現したり
風景描写に混ぜて書いているため、心の動きが非常にわかりやすいです

そのため、物語の序盤では
主人公の感情の重たさに読者側が苦しくなる部分もあります

しかし物語が進むにつれて
主人公は自分の感情に素直に耳を傾けることの大切さを学びます

そして
完璧な人間なんていない、だめな時もあっていいと
ありのままの自分を徐々に受け入れられるようになっていきます
読者もそんな主人公につられるように心が軽くなり、引き上げられる
そんな感覚が読み終わりにあります


私がこの本を初めて手に取ったのは26歳の時でした

当時、私が心から信じていた人の裏切りにあい
その衝撃と共に
自分が周囲に合わせて生きてきた
自分が空っぽであることに初めて気づいた
そんなタイミングでした

「自分は今後どうしていけば良いのだろう」
「そもそも自分は何が好きな人間だっただろう」

自分についてのさまざまな質問が
浮かんでは消え浮かんでは消えていく
混乱状態にありました

そんな中たまたま本屋に寄り、目に止まったのがこの本でした

私は疲れている。疲れている。何に。自分に。どういう自分に?
頭の中をぐるぐる回るそれらの言葉には、何の答えも出なかった。
それを答えるべき「自分自身」が私にはなかったからだ。

物語の始めに書かれていたこの文章を読んだときに
はっと気づかされるような衝撃を受けました

まさに今の自分を体現している文章だったからです

そして同じ悩みを持つものは一人ではないと気づかされました
それは、心がほぐされ、癒された瞬間でもありました

そこから物語に没入し
自分に不器用な主人公に
一部自分の姿を重ねながら読み進めて
そしてこの言葉を読んだとき、ぎゅっと胸をつかまれました

どうでもいい。そうだ、どうでもいい。自分の声に耳を澄まそう。聞こえなくてもいい。今ここにいるのは、私なのだ。

自分自身の感情に真正面から向き合うことは
簡単なようでいてわかりづらく、しんどいこともあります

ただどんなに些細なことでもいい
自分の心に耳を傾けること

周囲から見た正しさに従うのではなく
自分がどうありたいかを考えることが大切なんだ
とこの文章から学びました

本を読み終えた後はノートを開き
自分の好きなこと・やりたいことは何かを夢中になって考え
どんな小さなことも書き出したことを覚えています

そして後日談ですが、その書き出したことの一つであるワーキングホリデーに行くことを翌年実行しました

自分の声は自分にしか聴けないもの
この本をきっかけに
自分の心の声を素直に聴いてみてほしい

主人公や個性的な登場人物がそっと寄り添い、ヒントをくれるはずです
そしてやりたいこと・好きなことがあるならば
少しの勇気を持って、一歩踏み出してみてほしい
完璧な自分でなくてはいけないと思わなくて良いのです


その一歩踏み出せたほんの少しの勇気が
自分の視点を、自分の世界を変えるきっかけになるはずです


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