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残される方はいつも寂しい

「残される方はね、いつも寂しいの」

アルバイトの閉店作業中にパートさんに言われた一言がなんとなく胸に残っている。

その時、私はそのバイトを辞めることが決まっていて、店舗のオープンから働いていた先輩も就職のタイミングで一気に数人が辞めるタイミングだった。

少なくなった学生バイトのシフトを埋めるために13時から17時までのパートさんが17時からラストのシフトまで入ってくれた。

「みんなはどこにでもいけるけどね、残された方はいつも寂しいのよ」

乱れた商品棚をなおしながら別れを惜しんでそう言ってくれた。

その方は結婚されていて、中学生のお子さんもいた。だから家から通えて平日だけのシフトで17時上がりのこの仕事なら夕食までには帰れる。地元のママさんが多かったから授業参観とかに理解を示してシフトを代わってもらったりもできるし。

現に、入ったら部活の先輩のお母さんが働いていてびっくりした。

だから、どこにでもいけるわけじゃないんだろうなぁ。なんとなくそう思った。子供に何かあった時にすぐに駆けつけられて夕飯は家族で食べられて土日は家族といれるそれができる職場は沢山あるわけじゃないから、ここに残る他ないそんな意味も込められているような気がした。

久しぶりにラインを開いたら知り合いの苗字が変わっていた、トップ画が子供の写真になっていた。

同じサークルを、バイトをしていたからLINEは知ってるけど、別にもう連絡を取るような仲じゃない。それぐらいの関係性だから結婚したのも出産したのも知らなかった。

そっかぁ、もうそんな歳なんだ‥。なんとなく知ってるあなたじゃ無くなってしまったようで少しだけ寂しい。

仲がいい友達も恋人と同棲して長いみたいだし、そろそろ結婚するのかもなぁ‥。

その時、残される方はいつも寂しいという言葉がふっと口をついた。

友達の幸せは嬉しい、でも友達がみんな誰かの奧さんに、お母さんになっていくのはちょっと寂しい。学生時代は苗字で呼びあっていたけど、もうあなたの苗字はこれじゃない。昔は週末に集まって一緒のチームで体を動かしていたけど、子供が出来たら、家族が出来たらそうもいかない。

ずっと誰かが幸せになっていくのを私はここからみてるんだろう、今も、これから先も‥。

この前久しぶりに昔のバイト先で買い物をした。

そしたらたまたまレジで前に並んでのがパートを終えたあの言葉をかけてくれたパートさんだった。

職場の規定で髪を結ぶとか髪色はこのトーンまでしか駄目とかあったから数年ぶりに見かけたその人は一緒に働いていた時と変わらなくて、すぐにわかった。

サッカー台で隣になったから声をかけようかと思ったけど向こうは気がついてなさそうだというのもあり、やめた。

多分、もうわかんないだろうなと、私は髪もバッサリ切ったしマスクで顔の半分は隠れてるし髪色も変わったし、何より私があそこをやめたのはもう数年も前の話でその間に沢山新しい人が入って、辞めてを繰り返しているわけでいちいち辞めた人間のことなんて覚えてないよなって。

でも私はまだあなたのことを覚えていて、あなたがやたらと水分補給行っておいでと優しくしてくれたことも、少し寂しそうな顔で「残される方はいつも寂しい」と言った夜も覚えていて‥。

残される方はいつも寂しい。そして忘れられてしまうのはもっと寂しい。

そう思いながらあなたの隣から立ち去る。


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