【FF12】3つのシーンでストーリーの醍醐味を知ろう part3【解説】

(※ネタバレ注意)

シーン3の解説. 幻を断ち真の道へ至れ.

前回に引き続き, シーン3: リドルアナ大灯台頂上での一連のイベントを見ていこう. 前回と前々回の話が絡んでくるので, 先にご一読頂ければと思う.

前々回で書いたように, このシーンは控えめに言ってもFF12最重要シーンである. このシーンの理解なしにFF12のストーリーを語る事は不可能だ.

何度も言うように, ストーリー後半の主人公はアーシェとバルフレアだ. 2人の物語が本格的に動き出す場面は, シーン2で見る事が出来た. そして2人の物語は, このシーン3で決着する事となる.

このシーンでは出来事が多く, 見る人が混乱しやすい. まずは, 押さえるべき最も重要な出来事をまとめよう. それは以下の2つである:

① アーシェが破魔石と決別し帝国への復讐を放棄,
② バルフレアが父親シドとの因縁を決着させる.

これらに付随して以下の2つの出来事がある. これらもとても印象深い出来事だ.

③ ガブラスがアーシェと兄バッシュの言葉に激高し一行と戦闘,
④ レダスが破魔石"天陽の繭"を破壊し, 本懐を遂げる.

本当は全部語りたいが, そうすると長くなるため, 涙を飲んで今回は①のみに焦点を当てる. それでは, 内容を詳細に見ていこう.

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破魔石"天陽の繭".

アーシェの決断の過程を追う

状況を整理しよう. シーン冒頭の時点では, アーシェには2つの選択肢がある. 1つは新たな破魔石の力を手にして, 帝国への復讐を遂げる道. もう1つは破魔石を砕き, 復讐を放棄する道だ. もし2つ目を選べば, 復讐の道は断たれるが, 帝国の切り札である破魔石を無力化する事が出来る.

アーシェ: レイスウォール王はこの剣で繭を刻み――力を手に入れた。
ヴァン: だけどお前は、その剣で繭を壊す。――そうだろ。

ヴァンは, アーシェが繭を砕く選択をするよう問いかけている. これに対しアーシェは, 微笑みながら穏やかに「お前はやめてよ」と返す. これはヴァンの問いかけに対する肯定とも取れる答えである. この時点で, アーシェは破魔石を砕く選択にほぼ傾いていたと言えるだろう.

強調するが, この問いかけは, アーシェの悲しみを知っているヴァンだからこそ出来るものだ.  彼は, 大切な人を失う悲しみを知っている. 帝国への恨みを知っている. それは, アーシェの抱く負の感情と同じものであった. そんな彼だからこそ, 悲しみや恨みを乗り越えるためのアーシェの選択を支える事が出来る. それらを共に乗り越えようと声をかけるのである. シーン1で見た2人の関係性がここで生きてくる.

また, 序盤では復讐一辺倒だったアーシェの心境変化は, シーン2と結びついている. 彼女はバルフレアとの会話を通して, 曇りのない目で過去を見つめ直すきっかけを得た. この事が, 「死んでいった者のために復讐の義務を果たす」という考えを見直す事に繋がっている. 破魔石の力を求める彼女は, もういない.

スクリーンショット (240)

序盤のアーシェ. 復讐に燃えている.

しかし, いざ破魔石を砕こうとする一行の前に, 故ラスラ王子の幻影が再び現れる. その姿はまるで, 彼らの行く手を阻むかのようだった.

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これを見たアーシェは, 悲痛な声で叫ぶ.

アーシェ: 破魔石で――帝国を滅ぼすの?破壊があなたの願いなの?私の義務は復讐なの!?私は――。

この台詞からも, 「破魔石の力をもって帝国に復讐する自発的意思はアーシェには既に無い」ことが明確に見て取れる.

ここでガブラスが一行の背後から現れる. 彼はこの直前のシーンにおいて, ヴェインから「アーシェが帝国に仇なす者か否か」を見極めるよう命じられていた. ラーサーからは「卿の目を信じる」とまで言われていた. それにも関わらず, 彼はアーシェの復讐心を煽ってしまう.

兄バッシュを目の前にして, 彼に対する憎しみが抑えられなかったからだと考えられるが, 兄への憎しみと復讐を人生の糧としてきたガブラスにとって, アーシェの復讐心を肯定する事こそが自らの人生への肯定ともなるという心理が働いているとも考えられる.

ガブラス: (背後から現れ)なぜためらう。手を伸ばすがいい。お前に与えられた、復讐の刃だ。その刃で父の仇を討て!
ガブラス: 王を殺し、国を殺した相手が今、お前の前にいる!

ガブラスの言葉を聞いたアーシェは, 左手の覇王の剣を取り落とし, 憎しみに満ちた目で契約の剣を両手で握り直す. 覇王の剣は, 破魔石を砕くための剣. 契約の剣は, 破魔石を手にするための剣だ. アーシェの迷いが, 2つの剣をもって象徴的に描かれている.

スクリーンショット (243)

契約の剣を握りしめるアーシェ.

ガブラス: そうだ、それでいい。憎みぬけ!武器をとれ!戦って死者たちの恨みを晴らせ!

アーシェに復讐をけしかけ, 目の前にいたヴァンに切りかかったガブラスは, レダスに止められる. 続いてレダスは, 破魔石の力でナブディスを亡都へと変えてしまった自分の過去を明かし, アーシェに告げる.

レダス: 手を伸ばせアーシェ王女。だがな、掴むべきは、復讐や絶望を越えたその先にあるものだ。(ガブラスに聞こえるように)俺やお前のような、縛られた人間には手の届かない代物だ。

これに対しガブラスはなおも復讐心を煽る.

ガブラス: どれほどあがこうが、人は過去から逃れられん!この男がそれを証明しているではないか!さあ、過去に誓った復讐を遂げるがいい!それが死者たちの願いだ!

「過去から逃げる」というのは, シーン2で出てきた「過去を断ち切る」という話と繋がる. バルフレアもそうであったように, 結局人は過去から逃れる事はできない. ナブディスを一夜にして滅ぼした罪悪感から逃れられないレダスや, 祖国と家族を失った悲しみと憎しみから逃れられないガブラスもまた同様である. だからこそアーシェは, 過去から逃げるのではなく, 過去と向き合わなければならない. 死者たちの願いを, 自らの意思をもって決めなければならない.


アーシェの決断の最終的な決め手となったのは, ここはやはりと言うべきであるが, ヴァンであった. 物言わぬ心境の変化が, 見つめ合う2人の表情から読み取れる.

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アーシェはヴァンを見た. 兄レックスの仇であるガブラスに剣を向ける彼を. 憎しみに心を奪われた彼の顔は, 普段の彼からはとても想像できない程に, 醜く歪んでいた.

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アーシェは, 自分を見た. 彼女の目に映るヴァンの姿は, 帝国を憎み, 復讐に燃える醜い自分の姿と同じである事を悟った. 

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アーシェを見たヴァンも, 表情を和らげる. この2人は, 互いの映し鏡だ. 同じ悲しみを背負い, 同じ憎しみを背負って生きてきた. 2人の間に言葉はないが, お互いの気持ちは手に取るように分かる. 相手はまさに自分である.

アーシェは, 復讐を誘うように手を広げるラスラの幻影に告げる.

アーシェ: ラスラ――。私、あなたを信じてる。あなたは――。あなたはそんな人じゃなかった!

叫びながら, 幻影を断ち切るアーシェ. 「幻を断ち真の道へ至れ」 というレイスウォール王の遺した言葉は, ダンジョン攻略のヒントであると同時に, この決断の伏線となっている. そして, ただ悲しげな声で呟く.

アーシェ: あの人はもう――いないんだ。

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「ラスラはもういない」という変えられない事実とその悲しみを, 帝国への復讐心へと転化させる事で覆い隠してきた彼女は, こうしてようやく過去を受け入れた. 愛する者を失い, 国を失った辛さから目を背ける事なく, 正面から受け止めたのである. ダルマスカ王国が滅亡したその日から, 帝国への復讐を自らの義務としてきたアーシェの歩みは, ここで終幕となる.

続いて彼女は, "天陽の繭"を砕き, 破魔石を捨てる事を皆に告げる. これに対し, ガブラスは問いかける.

ガブラス: 力がいらんというのか。では国を滅ぼされた屈辱はどうなる。死んでいった者たちの恨みはどうなる!

スクリーンショット (253)

この台詞は, これまでのようなアーシェの復讐心を煽るためだけのものではなく, それ以上の大きな意味を持つ. 

先に述べた通り, アーシェの復讐心への肯定は, 人生の全てを復讐心に捧げてきたガブラス自身の生き方への肯定ともなる. 反対に, 帝国への復讐を遂げるための力を目の前にしてなお, 復讐の道を自らの意思で放棄するアーシェの選択は, ガブラスにとって自らの人生の全てを眼前で否定された事と同義である. ガブラスの言う「国を滅ぼされた屈辱」とは, アーシェにとっての祖国ダルマスカの滅亡であると共に, ガブラスにとっての祖国ランディスの滅亡と解釈する事も出来る. この叫びは, ガブラスのアイデンティティの根幹と直結した本心からの叫びである.

この問いかけに答えたのは, アーシェではなくヴァンだった.

ヴァン: ――違う。
(驚くガブラス)
ヴァン: 何も変わらないんだ。兄さんの恨みなんか晴れない。兄さんはもう――いないんだ!

ストーリーを補完出来ていないと, アーシェではなくヴァンがここでガブラスの問いに答える事が, 不自然に感じられてしまう. しかし, ここまでヴァンとアーシェの関係性を丁寧に見てきた私達には明らかである. 彼の言葉は, アーシェの言葉の代弁なのだ.

スクリーンショット (256)


死んでいった者たちの思いは, 生きている者たちが決めるしかない. そして, いなくなってしまった者たちの思いは, 何をしても変わらないというのが彼らの結論である. アーシェとヴァンが最終的に到達したこの考え方は, 実はバルフレアによって序盤で既に提示されている. 以下は, バッシュ登場直後のバルハイム地下道での会話だ.

ヴァン: あんたの仲間あつかいされて、兄さんは何もかもなくした。今さら――。
バッシュ: 私はいい。彼を信じてやってくれ。彼は立派な若者だった。最後まで祖国を守ろうとした。――いや、弟を守りたかったのだろうな。
ヴァン: あんたが決めるな!
バルフレア: ならお前が決めろ。楽になれる方を選べばいい。――どうせ戻らない。

この言葉をどのように受け入れ, 体現していくのかが, シーン3 ①における最大のポイントであり, FF12のストーリーのクライマックスである.


おわりに

僕は, FF12ほどストーリーが綿密に構成されているRPGはなかなかないと思っている. 序盤からの伏線, 直前直後のシーンの繫がり, 一つひとつのシーンでの登場人物の心情変化の描写など, 丁寧に見ていくと本当に良く練られている事が分かる.

これを書いている時点で, オリジナル版の発売から15年が経つ. FF12のシステム面の素晴らしさは十分に評価されてきた. その一方で, 今までストーリー面の素晴らしさにほとんど目が向けられて来なかった事実は, 本当にもったいない事だと思う. 

自分の拙い文章で, 少しでもFF12のストーリー面の魅力が伝わったならば, これほど嬉しい事はない. この他にも良いシーンが沢山あるので, 是非一度(既プレイの方はもう一度)プレイして頂ければ幸いだ.

ここまで読んで頂き, ありがとうございました.

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