あなたの目がほしい
なんで写真を撮るんだろう。
1つの理由は間違いなく、「今を思い出に残したいから」だ。
今この瞬間にも、人生の残り時間をしめす砂時計はさらさらと無情に流れ落ちていく。二度と戻らない「今」を生きた証を、未来の自分のために残してあげる。その手段が写真だ。
私にとって写真を撮るもう1つの理由は、「目がほしいから」だ。
もう少し丁寧に言うと、「世界の中のうつくしいものを見つけだすための目がほしいから」だ。すごく当たり前のことをいうけれど、うつくしい写真を撮りたかったらうつくしい瞬間を見つけなくちゃいけない。なんてことのない日常に、うつくしさは無数に潜んでいる。その瞬間を「うつくしいぞ」と認識するからシャッターに手が伸びるのだ。でもこれがびっくりするくらい、注意深く見てないと見つけられない。
写真を撮るようになって、初めて「逆光」がうつくしいものだと知った。
複雑な模様を つくる影も。
ととのった幾何学模様も。
いや、それまでもなんとなく「きれいだなぁ」と感じてはいたのかもしれない。だけど次の瞬間にはほかのことを考えていたはずだし、その感動も、今よりずっと浅かったことは間違いない。
上手い人の写真を見たとき、いつも考えてしまう。「この人には世界がどういうふうに見えるんだろう」。願わくば、あなたの目がほしい。私には見えないうつくしさを見出すあなたの目で、この世界を見て見たい。そう思わずにはいられない。
だから私ももっと写真が上手くなりたい。仕事の合間にトイレでひとりため息をついたり、満員の東西線からうまく降りられなくて舌打ちされたり、そんな日々の中でも「うつくしい」瞬間を見つけ出すために。
どんどんうまくなって、どんどん「うつくしい」と思う瞬間が増えて、おばあちゃんになって死ぬ頃には、目に映るものすべてがうつくしく思えるようになったらいい。窓の外の枯れ木もしわしわの手も、ぜんぶうつくしいと感じられたらいい。
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