SEOライティングが好きなライターなどこの世に存在するのだろうか

別にSEOライティングはやめるべきだ、などというつもりは毛頭ない。戦略の一つとして有効だから、多くのWEBメディアが利用しているというだけだ。そのメディアが決めたレギュレーションに従って、外注ライターは原稿を作っていく。ライター業は外注なのだから、基本的にクライアントが定めたルールに従い、求められたクオリティの仕事を納品すればいいだけなのだ。

昼間は一般企業で働いている。でもいつ何時どんな苦境に立たされるかわからない、こんなご時世だ。食い扶持ぐらいは稼げるように、WEBライターの仕事を始めた。地域情報紙で編集者をした経験あり。その後、WEBメディアの編集者をしていたこともあったが、ライティング専門で仕事を受けたことはなかった。

初めてWEBライターとしての仕事を受注したとき、とても緊張したし不安だった。
長いことメディアに携わってきたが、自分に文才があるなどと思ったことは一度たりともなかった。私は編集者として、自分の数倍は経験値を有しているであろうライターの、自分の脳みそからは到底絞り出されることのない奇跡にも近い文章の数々に触れてきた。難しい言葉は一切使っていないのに核心をついていて、共感しかなくて、まさに自分が考えていたことを的確に言語化している、あの感動。ありがとう、こちらの編集意図を汲んでくれて、ライターになってくれて、生まれてきてくれてありがとう。ところかまわず感謝したくなる、そんな気持ちだ。
自分にあのような仕事ができるとは思えなかったから、WEBメディア界で自分の能力が通用しなかったらきっぱり諦めよう、と腹をくくった。

記念すべき第一回目の仕事は、すでに文章構成と見出しが完成しており、本文の執筆のみの依頼だった。文章構成と見出しが他者によって作られている時点で、昔ながらのやり方しか知らない自分にとっては違和感アリアリだったのだが、まぁそこは一旦置いておいて。それ以上に、どうしても見過ごせない点があった。
タイトルが、何度読んでも、どう解釈を変えても、おかしいのだった。

SEOにおいて、記事のタイトルは15~20文字くらいにまとめるのがいいらしい、知らんけど。その短い一文の中に、列挙や強調の意味を持つ助詞「~にも」が3回も含まれていた。
なんだこれは気持ち悪い。たとえ本文のなかでも、一つの文章に2回も使わないというのに。もうひとつ信じられなかったのは、このタイトルがすでに運営側の承認を得ていることだった。
誰もこの一文に「にもにもってやかましいなファインディングニモか」と突っ込まなかったのだろうか。このままだとサジェストキーワードに「にも」と出てしまうがいいのかと、覚えたてのSEO知識を脳みそから引っ張り出して心の中でわめいた。

やるだけやってみるか。そう思って、出過ぎた真似をして恐れ入りますがと低頭姿勢を保ちながらクライアントに意見を申し上げた。が、返答は「特に問題ないかと思います」とのことだった。

私はこれがどういうことなのかを冷静に考えてみた。つまり彼らの求めるライティングと私の憧れている文章には、マリアナ海溝のように深く埋めがたい乖離があるということだ。そもそも同じ言葉がいくら重複していようと、違和感ととらえないのがSEOライティングである。感動などいらない。いかにキーワードを多く含み検索上位に上がるか、それだけがこの記事の価値であり存在意義なのである。私たちは神「Google」の巨大な手のひらで、アルゴリズムという名の経典片手に、同業他社よりも早く天竺にたどり着こうと右往左往するSEO信者だ。

少々筆が乗り大げさに書いてしまった。とにかく長考の末、私は一切を理解した、ような気になった。こんなもんか、SEOライティング、と。
それからというもの、初仕事のときに感じていた不安や緊張感は霧のように消え失せ、ただ求められている業務を淡々とこなしている。納品している原稿に、大きな修正はない。「一文が長いです」とか、その程度のものである。クライアントのニーズには答えられているようで、そこは安心だ。

しかし、インターネットの海には読み応えのある記事だって確かに漂っている。なぜすべてのWEBメディアが、Googleのアルゴリズムへ媚びを売るのではなく、読者への訴求力に全振りした情報を発信できないのだろうか。丁寧に時間をかけて取材した完全オリジナルの情報よりも、いくつかの他サイトから情報を拾ってきただけの擦り倒した記事を上位に上げるメリットがどこにあるというのか。

SEOが悪いのだろうか。Googleが悪いのだろうか。それとも賢くなった気になって、経典を拡大解釈した人類が悪なのだろうか。そんな自分にはどうにもできないことを考えてしまうから、私はSEOライティングを好きになれないのである。
そして思うのである。SEOライティングが好きなライターは存在するのだろうか。いるならぜひとも私に、納得のいく説法を説いてほしい。



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