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【短編小説4】プール

プールがすき。
ちょうどいい温度、プールの中だけで起こる小さな波のうねり。
海にはない感覚。
海も同じじゃないと聞かれるけど全然違う。
海は彼方まで続いているけど、プールは25m先しかないし、プールの中で漂流する心配もない。

プールに潜って泳いでいると、胎内ってこんな感じなのかなと思う。
温かくて、程よく圧力がかかり心地いい。
子を身ごもったお母さんのお腹の中は海に例えられるけど、どちらかといえばプールだと思う。

ゆらゆら、ゆらゆら泳いでいると雑念が無くなり無の感情になる。

今日、あんたの子供の顔が見たいと泣かれた。
子供の時、親代わりに育ててくれたおばあちゃんに。

体を悪くして入退院を繰り返し、最近はベッドから起き上がることも難しくなった。
お見舞いに行くと、すっかり気が弱くなり物事を悲観して考えるようになっていた。
私の命はもう短いけど、最後にあんたの子供をこの手で抱きたい。

でもね、おばあちゃん。
私の恋人は女性なんだ。
幸せなのに、そんなに泣いて懇願されたら自分の道が間違っている気持ちになってくる。

ゆっくり水面に浮かんでいく。
目を開けて、深く、深く呼吸をする。
私の腹にプールは作れない。

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