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【戦略人事】から組織のエンゲージメント向上を考える

こんにちは。


健康経営エキスパートアドバイザーのYURIKOです。


今回は【戦略人事】という観点から組織のエンゲージメント向上について考えてみたいと思います。


今回の参考図書はこちら⇩

リード・デシュラー/クレイグ・スミス/アリソン・フォン・フェルト著、土井哲/長島高志/山下茂樹訳「最強の戦略人事」東洋経済新報社、2020


1. 訳者土井氏の課題認識

日本語版の発刊にあたり、冒頭で訳者の土井氏は2010年以降日本で広まった「組織開発」への課題認識と本書で紹介するフレームワークの違いについて、以下のように触れています。

日本では2010年以降、組織開発の大家であるDaniel Kimの考え方が幅広く支持され、人同士の関係の質を高めることが思考の質、行動の質を高め、結果の質を高める(=企業の業績が良くなる)という考え方が主流となったこと。「心理的安全性」「職場の人間関係」など現場での対話を重視するアプローチがとられてきたこと。
これに対して土井氏は「現場にある情報は断片的」「広い視野、高い視座で考えられる人は決して多くはない」「残念ながら社員がみな業績を上げることに熱心とは限らない」などの理由から、現場からのアプローチでは、変化し続ける過酷なグローバル競争にさらされている企業の業績向上につながるとは思えないと考えていること。
本書の中で紹介するAOS(AlignOrg Solutions)社のアプローチは逆で、人中心ではなく、戦略に組織と人材を合わせていくという考え方であり、企業変革を確実に前に進めるアプローチであること。

また土井氏は、AOS社のアプローチを理解するためには、欧米企業と日本企業の違い、日本企業の課題を理解する必要があるとして、これらについても紹介しています。


2. 欧米企業と日本企業の人事部門の違い、日本企業の人事部門の課題

欧米企業と日本企業の人事部門の違いで特徴的なのが、ビジネスパートナー(HRBP)という存在です。

欧米企業の人事部門には、CEOをはじめとするトップマネジメントチームや事業部門などが戦略を計画実行する際に、このような企業活動を支えるHRBPが存在し、ビジネスに直接貢献する戦略人事としての役割が果たせるような組織体制を構築しているとのことです。また人事部門が新たな制度を作った際にも、「制度を作ったから使ってくれ」ではなく、その制度が意図したビジネス効果を上げるよう、人事部門がビジネスラインに働きかけ、ファシリテートし、時にはリードして所期の成果を上げることを後押しします。

他方、日本企業の人事部門は、事業戦略の支援的な役割が不明確なまま、依然として人事、採用、育成、労務管理、給与計算など人事ファンクションを中核とした伝統的な組織体制を維持しています。

これにより、グローバリゼーション、デジタルトランスフォーメーション、イノベーション、M&Aといった経営課題に対して日本企業の人事部門では支援的な役割が十分果たせていないケースが大半ではないかと課題視しています。


3.欧米企業と日本企業の戦略策定アプローチの違い、日本企業の課題

欧米企業と日本企業では、人事部門だけでなく、戦略策定アプローチも異なります。

欧米企業ではトップから下層展開していくのに対して、日本企業の場合、変革の方向性や戦略は部下にプランを提出させるボトムアップのアプローチをとる企業が少なくないとのことです。

また、戦略を実行する際の人選の方法も異なります。

欧米企業では、戦略を組織能力に落とし、職務(Job)に落とし込んで最後にそれに合う人材(候補者)をニュートラルな視点で探す「適所適材」を行う一方で、日本企業では「適材適所」、まず人から、しかも社内からというのが大原則です。

このように欧米と日本企業では戦略策定アプローチ、人事部門の位置づけ、また本書では触れられていませんでしたが雇用環境なども含めて大きく異なりますが、事業環境が激変する中、よりプロアクティブに対応するには日本企業にも変革が求められていると訴えてています。


4. 戦略、組織能力、組織システムの選択を「揃える(アラインする)」

前置きが長くなりましたが、ここからが本題です。

AOL社のアプローチは、①戦略、②組織能力、③組織システムの選択。これらを①から③の順番で進めること、アライメント(並べて方向を揃える)ことが重要と繰り返し事例を交えて丁寧に説明しています。

①戦略 顧客から選ばれる理由。他社とは差異化された提供価値を明確に説明できないのであれば、②、③に進む準備ができていない。まずは戦略を明確にすること。
②組織能力 戦略は未来に向けたものだが、組織能力は過去の取り組みで培われた強み。戦略を変える場合、現在の組織能力と未来に向けて必要な組織能力の差分を明らかにして埋める(能力開発)することが必要。
③組織システムの選択 差異化のための戦略を実行するためには、差異化された組織能力が必要。組織システムの要素には、「業務プロセス」「構造とガバナンス」「情報と指標」「人材と報酬」「継続的な改善」「リーダーシップと企業文化」が含まれる。これら一つに手を入れるだけではNG。差異化として選んだポイントに影響を及ぼす要素の全てが競合他社よりも優れている必要がある。それ以外は最低限でも業界平均を目指す。


5. 【戦略人事】から組織のエンゲージメント向上を考える

今回は「戦略人事」という幅広いテーマを概観しました。

訳者の土井氏の課題認識でもふれていますが、日本で2010年以降指示されてきた、人中心の組織開発のアプローチは、現在のエンゲージメントや健康経営と同様のアプローチであり、業績との因果関係が説明しづらい点も類似しているように感じます。

一方、本書で紹介されているAOS社のアプローチは、事業開発のアプローチ、特に戦略策定以降の戦略を日々の業務にまで落とし込む具体的なステップと考え方がまとめられたもので、本書を読むまで抱いていた「戦略人事」のイメージよりも、遥かにビジネスよりの内容でした。事業開発の書籍などでは戦略策定部分のみ触れているものが多く、戦略をトップの行動から日々の業務に落とし込むまで徹底して組織全体の方向性を揃えるという視点は、確かに日本企業に欠けている視点であり、やりきれていない点かもしれません。

今回のAOS社のアプローチから組織のエンゲージメント向上を考えるのであれば、まずは戦略(提供価値や差異化の明確化)があることが大前提であり、組織のエンゲージメントについては、闇雲にあげれば良いということではなく、戦略実現のなかで人が生み出す提供価値を最大化するために何をすべきか、あくまで戦略との整合性をとりながら具体的な施策を検討すべきといえるかと思います。


今回は以上です。

最後まで読んでいただきありがとうございました。少しでも皆さんの気づきになれば幸いです。

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