【コップに水を注いで出すところで働くな】
小学校の低学年だっただろうか。まだ「働く」というものが、何かもよくわかない年頃だった。父は言った。
「いいか、コップに水を注いで、それをお客さんに出す仕事は絶対にするなよ」
昭和一桁生まれの父にとり、「カフェ」というのは、今のような老若男女が、コーヒーやスイーツを楽しんで、おしゃべりをするような場所ではなった。今でいうところに、「キャバクラ」に近いだろうか。女性が、主に男性客に、お酒などを注ぐ”大人の社交場”だった。それをイメージして、この言葉が出たのだろう。
時代がどんなに変わろうと、娘にいわゆる「水商売」で働くことを奨励する父親は少ないだろう。私の父もそういう点では、同じ気持ちだっただろう。だったらせめて、「男の人にお酒を注ぐような場所で、働くことは考えなさい」でもよかったのではないかと思う。今では、どんな飲食店でも、まずはテーブルにつけば、「お水=お冷」が出される。となれば、飲食店全般で働くなという意味になってしまう。
私が16歳になると、父はガンで亡くなった。せめて自分のお小遣いは、自分で何とかしようと、アルバイトをすることを決めた時、父の言葉が呪縛となり、飲食業は候補から除外された。
職業差別する気は毛頭ない。水商売うだろうが、飲食業だろうが、仕事は仕事、多くの人に必要とされている。ただ、私の職業選択に、父の言葉は多大なるパンチがあった。
追記:eiitiaokiさんの画像を使わせていただきました。ありがとうございました。
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