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クリス・オウエンのツイート - ロシア軍の腐敗シリーズ(5) 軍への汚職の影響について

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ロシアにおける軍事腐敗の事件で、自分の船から青銅製のプロペラを盗み、より安い鋼鉄製のプロペラに交換して3900万ルーブルを手に入れた駆逐艦長ほど恥知らずなものはないだろう。最後の第5弾はロシア軍への汚職の影響について。

ロシアのウクライナ侵攻により、ロシア軍の装備に多くの欠陥があることが明らかになった。医療キットや食糧が何年も前のものであったり、兵士がロシア版eBayでボディアーマーを購入しなければならなかったり、車両のタイヤがバラバラになったりと、あらゆるものがこんな調子だった。

しかし、腐敗の影響を、無能や不始末といった他の問題と切り離すことは難しい。そのため、このスレッドは、必然的に前のシリーズよりも少し推測的なものとなっている。ただし、いくつかの点は明らかである。

腐敗の規模を定量化することは、その多くが公表も訴追もされていないという事実によって妨げられている。ロシア政府の発表によると、毎年巨額の費用がかかっており、損失は拡大傾向にあるようだ。

ロシア政府によると、汚職によって2019年の550億ルーブルから2020年には少なくとも580億ルーブル(10億ドル)の損失が発生したそうだ。汚職で起訴された10,879人の職員のうち、1,337人(12.3%)が国防省の職員で、2番目に大きなで一味であった。

記録された汚職関連犯罪のうち最も多かったのは秩序と治安の分野で、全体の19.9%(4,521件)を占めた。国防省は、汚職で起訴された人の数は30%増を記録した。

ロシア軍の汚職による損失額は明らかにされていないが、2010年、ロシア検察当局は、損失額が2008年から2009年の間に倍増し、1年で30億ルーブルを超えたと報告している。モスクワの新聞「Nezavisimaya Gazet」は、これで何が買えたかを計算している。

* T-90戦車 50~55両
* BMP-3またはBMP-4歩兵戦闘車75〜80台
* Su-30またはMiG-35航空機3〜4機
* Mi-28NまたはKa-52戦闘ヘリ8〜10機
* ステレグシチー級コルベット1隻
* トポールM核ミサイル1~2基
* 偵察衛星3-4基
* 13万人の兵士の1年分の食料
* 30-35万人分の軍服
* 150-200人の軍人の家族のための2棟のアパート。

したがって、機会を逃したという点では、軍事詐欺や横領には、非常に現実的なコストがかかっていることは明らかだ。

ロシアの元外相Andrey Kozyrevによると、ロシアが軍備の近代化に費やした資金の多くは "盗まれ、キプロスのメガヨットに費やされた "そうです。ロシアの国防費はこれを反映している。

2001年から2004年にかけて、プーチンはロシアの国防予算を550億ルーブルから1880億ルーブルに増額した。しかし、2004年には防衛関連企業にはほとんど資金が届かず、ロシア国防省のシステムの中で消えていったと言われている。

2008年だけでも、20人の将官と提督が汚職で起訴された。1,611人の将校が有罪判決を受け、そのうち160人は軍の部隊の司令官であった。将校は軍の汚職犯罪の4件に1件の割合で責任があると言われている。それにもかかわらず、事件数は増加していた。

これが全体像だ。汚職が現場に与える影響について、まず徴兵制から見てみよう。徴兵された者の70%もが、しばしば賄賂によって免除を受けている。“免除チケット”の値段は5万〜50万ルーブル(950〜9500ドル)と言われている。

免除されない人々は、不釣り合いに病気か栄養不良である。2007年に報告されたロシア空軍の徴兵者の30%以上が「精神的に不安定」であり、10%がアルコールや薬物の乱用に苦しみ、15%が病気や栄養失調に陥っていた。

つまり、(軍隊に)加わる前から、一般のロシア兵は一般国民よりも病気や飢餓になりやすいということだ。その後、状況は改善されるのだろうか?そんな事は全くない。

食糧について考えてみよう。腐敗はしばしば、兵士に細菌に汚染された腐った、カビの生えた食物を提供することを意味する。供給業者による詐欺では、注文されたものの代わりに、より安い、より少ない量の食品が提供されることがよくある。衛生状態が悪いと、大腸菌が発生する。

住居もひどいものである。レニングラード州ロモノーソフにあるロシア海軍の訓練所では、徴用兵は囚人よりもひどい状況に直面したと伝えられている。兵士達は、廃墟と化した兵舎に住むことを強いられたと表現した。

「食堂のない廃墟のような所に男達は押し込められた。輸入食品は不味い。お湯も出ない。バラックは、カビや湿気があり、180人に1台の乾燥機が置いてある。」

「ラジエーターで靴下を乾かすことは禁止されており、みんな濡れた服を着ていて病気になる。同時に薬もなく、救急隊員はソーダと塩でうがいをさせるだけだ。」

ヴォルゴグラードの工兵隊員も同じような状況に直面した。「部隊の医療センターには初歩的な薬もなく、親が持ってきたものは将校に隠さなければならないんだ。(荷物を受け取ってすぐに取り上げられなかった場合の話だが)」

放置と腐敗の結果が致命的となることもある。2015年7月、オムスクの兵舎が、2年前に修理を担当した業者の施工不良、メンテナンス不足、汚職によって倒壊した。24人の兵士が死亡した。

将校や仲間の兵士によるロシア軍の残忍な搾取は、道徳的に腐敗させ、関係者全員を残忍にする効果も持っている。腐敗と搾取は彼らの倫理観の一部であり、それは(彼らの行き先を塞いで)邪魔な民間人への扱いにも反映されている。

搾取の一般的な形態は、腐敗した将校の利益のために、建設プロジェクトや工場で無給の労働力として下級兵士(特に徴兵兵)を利用することである。これは彼らの訓練時間に深刻な影響を与え、戦闘への準備を怠らせることになる。

ロシア軍の給料は現金で支払われるため、将校が給料を簡単に盗む機会がある。ある者は200人の部下の給料(200万ルーブル)を盗み、自分と家族のために使ってしまった。部下がどれほど士気を失ったか、想像に難くない。

盗みと腐敗は、ロシア軍が戦場に赴く際、装備が不十分であることも意味する。ロシアの軍事ブロガーたちは、軍隊の基本的な物資を購入するための寄付をクラウドファンディングで募っているが、その多くは、軍の倉庫から盗んだ腐敗した兵站部隊からオンラインで購入されている。

ウクライナ侵攻の初期、燃料切れで多くのロシア車が放棄された。ロシア兵は侵攻前に、燃料が必要になるとは知らずに、ベラルーシ人に自分の車の燃料を不正に売っていたと言われている。(映像) 

ロシア軍では燃料の横領は当たり前で、燃料は(ルーブルに次ぐ)「第二の通貨」と見なされているほどだ。2019年のある事例では、3人の水兵がセバストポリで126トンの燃料を360万ルーブルで売って有罪になった。燃料の小口窃盗が頻発している。

故障も頻発していたようで、ウクライナ側は多数の戦車、トラック、装甲車を無傷のまま捕獲し、ロシア軍に対抗することができた。ここでもまた、汚職が要因であることはほぼ間違いない。

バルチック艦隊の装甲車の整備を担当するピョートル・ピベン少将が、戦車 4 台と歩兵戦闘車 10 台の修理を偽って許可した例がある。この業者は作業を行わなかったが、570万ルーブルを手に入れ、その一部を賄賂として分配したと思われる。

コンポーネント(部品)の代用は頻繁に起こる詐欺である。ロシアのトラックや高級ホイールシステム車両でさえ、タイヤがボロボロになったために放棄された。報道では、安価な中国製タイヤが、より良いが高価なロシア製タイヤと交換されたためとされている。


腐敗が作戦遂行に及ぼした影響は、通信に関して特に深刻であったと思われる。これは「緑のワニ」と呼ばれるR-187Pアザート無線機で、傍受に強いと言われる先進のソフトウェア定義型無線機である。

アザートの開発のあらゆる段階が汚職によって妨げられてきた。2008年にロシアがジョージアに侵攻した際、深刻な通信障害が発生したことを受けて、このプロジェクトが開始された。本来なら、既存のシステムを改良するはずだったのだが、それが実現しなかった。

代わりに、当時のドミトリー・メドヴェージェフ大統領と密接な関係にあった会社が、全く新しい無線機を(それに伴うあらゆるリスクも含めて)開発・生産するために、2009年に180億ルーブルの契約を獲得した。全ての兵士が受け取るはずだったものだ。

その代わり、13年後の現在、ロシアの90万人の軍人に支給されたアザートは約6万個に過ぎないと推定される。仮にウクライナ侵攻に関わった部隊に1つ残らずアザートが支給されたとしても、その数は3人に1人の割合でしかない。

実際にロシア軍の手に渡ったアザートの数は6万以下であることは確かである。盗まれたアザートは、ロシアのeBayに相当するAvitoに定期的に出品され、約40,000ルーブル(30万円)で取引されている。30万円もするものだ。

そしてケーキの上に乗っているさくらんぼ、つまり肝心のアザートのケースの中身だが、ロシア製ですらない。請負業者と腐敗した役人が、軍事仕様のロシアの部品を安い中国の部品で代用し、その差額を懐に入れることによって、180億ルーブルの予算の3分の1を盗んでいったのである。

その結果、ウクライナに駐留するロシア軍にとって、通信障害は避けられないものとなった。ロシア軍はアザートではなく、携帯電話や中国製の安価なアナログ無線を使っているため、ウクライナ側が簡単に盗聴し、大砲を投下することができるのだ。

3月のニューヨークタイムズによると、「多くのロシア軍将兵が安全でない電話や無線で会話している。少なくともある例では、ウクライナ軍が将軍の通話を傍受し、位置を特定し、その場所を攻撃して将軍とそのスタッフを殺害した」。

腐敗がウクライナでの努力に害を及ぼした全ての方法をロシアと外部のコメンテーターが解明するには、おそらく何年もかかるだろう。しかし、ウクライナ全土を征服しようとするロシアの努力は、軍の腐敗の影響もあって失敗する可能性が非常に高い。

腐敗がなければ、ロシアはより多くの優れた装備、より高い士気で訓練された軍隊、そして潤沢な燃料と食糧を手に入れることができただろう。そうすれば、戦争初期にキーウ、ハルキウ、オデーサを占領するのに十分だったかもし れない。

しかし、かつてドナルド・ラムズフェルドが言ったように、あなたは今あなたが持っている軍隊で戦争に臨むのである。ロシアの場合、それはあらゆるレベルの腐敗によって空洞化した軍隊と戦争することを意味する。腐敗政治は結果をもたらす。終




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