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宮島のゲストハウスで働いた話<亀裂編>

ゲストハウスで働くことが天職だと舞い上がって、麻痺していたことがあります。

それは雇用条件です。

私はアルバイトとして働きはじめました。
スタッフ全員がアルバイトでしたし、オーナーである社長も、社員を雇うつもりはなかったようです。
いま振り返ればおかしな話です。私はこのゲストハウスの求人をハローワークでも見つけたので、社会保険完備にチェックが入っているのを見ていたんです。
というのも、経験が積みたい私にとって、そんなことは本当にどうでも良かったんですけど、母が社会保障がちゃんとしているところで働きなさいと、口すっぱく言ってくることにうんざりしていたからです。

アルバイトとして働きはじめてから間もなく、私は社長に、社会保障のことを尋ねました。明らかに顔色を変える社長。そして何やら小難しい言葉を浴びせてきます。無知だった私は、まずいことを聞いたと思い、恥ずかしくなりました。
「やっぱ、小さな会社でこんなことを気にする人は身の程知らずなんだな」
いやいやいや、気にして正解だよ、って言ってあげたい今なら。

しかし、その数ヶ月後、私ともう一人が社員に昇格することになったのです。
なんか、解決したわけじゃないけど、これで社会保障の問題もクリア。だから、社長が何やら言って私を丸め込んだ話は追求しませんでした。

でも、これが亀裂のはじまりだったかもしれません。

私がうまく立ち回れなかったというか、向いていなかったというか、人として未熟すぎたんです。

やっぱり、それまでみんなアルバイトで、横並びで仲良く高め合って働けていたのに、仕事の内容は変わらなくても、社員とアルバイトになった途端、どことなく「指示を出す人」と「指示を待つ人」になるし、
社長とアルバイトの直接のコミュニケーションはなくなり、常に社員を間に置いて伝達がされるようになりました。たった6、7人の職場でですよ。

社員になってから入ってきた新しいスタッフは、もっと「そういう目」で見てきます。元看護師の子とか、高卒の新卒の子とかが入ってきます。そして、私が聞いたのと同じように、社会保障のことを聞いてきます。
「フルタイムで働いてるのに、社員にならないと社会保障をつけてもらえないなんて、この会社おかしいですよ」と言われます。
社員になればいいよと言っても、誰も頷きません。

私は、こんなに楽しく働けて、宿運営の勉強もできて、いろんな人と触れ合って世界広がって、英語力も伸びる仕事に心から誇りを持っていました。無論、給料が低いことに不満を持ったことなんて、全然ありませんでした。
月10万で豊かに暮らすれんげ荘の物語に憧れているってのもありますし、こんな薄給でも、2〜3週間のヨーロッパ旅行もできちゃうんですもん。
有給?ボーナス?そんなの都市伝説でしょ。新卒で1年働いたあの会社も、そんなのなかったですよ。

あれ、おかしいな。
みんな、何のためにここで働いてるんだろう。
そんな間に、後から入ってきた子が辞め、また入ってきては辞め、新メンバーとのギャップが大きくなっていきました。
仕事の内容も管理職っぽくなってしまって、現場にいるのに、最初の頃みたいに両手放しで自由に接客を楽しめなくなってしまいました。

私にはマネジメント力もリーダーシップもなかったのです。
私がつきっきりで新メンバーを教えれば、自分とおんなじ価値観をもった人間に育てられると思っていました。
そうすれば、雇用条件とかなんとか言わずに、楽しくやりがいを持って働いてくれると思っていました。
そうしてお客さんがいっぱい来て経営が盛り上がれば、雇用条件も改善されると思っていました。そうなったら私は卒業しようと思っていました。

だけどなんだか上手くいきませんでした。
私が社員だからいけないんだ。
また自由に仕事がしたい。そのためには・・・
そう思って、アルバイトに戻してもらいました。その後に辞める前提で。

それで解決するわけないのにですね。
人のせい、環境のせいにする、それに、自分のやり方を押し付ける嫌なやつでした、私は。

現在、大手のビジネスホテルで働いています。
そこで日々、古株の先輩や上司の言動と、あの頃の私の言動が重なり、その度に過去の自分を反省する日々です。

ちょっと気持ち悪いこと言いますが、
自分で、100点じゃない自分を認めてあげられていなかったんだなーと思います。
周りに褒めてもらいたい、認めてもらいたい。それがないと自己嫌悪に陥る。認めてくれない周りを憎む。そんな負のスパイラルに陥っていました。

その辺の話はまた。

そんなこんなで、ようやくバックパッカーズ宮島に良いなと思うメンバーが揃いはじめました。新生バックパッカーズ宮島として勢いづくだろうと確信し、私は卒業することにしました。

つづく。

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