【短編】恋愛ごっこ

「ねえ、聞いてもいい?」
ホテルのエレベーターホールへ向かう途中、彼が言った。
「ん?」
「やっぱやめとく」
そう言うと、エレベーターの下行きのボタンを押した。
「何?明日、死んじゃうかもしれないよ」
「僕のこと、好き?」
ほんの少しだけ、返事を躊躇う。
いい大人だ。
しかも、彼には奥さんがいる。
エレベーターのドアが開くと同時に、私は少し頷いた。
「じゃ、僕と同じだね」
彼は微笑んだ。
何かほっとしたような気持ちになる。
全部ウソなのに。

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