【短編】ソウルメイトとかいう男

昔、付き合っていた男性となかなか関係が進まなかったことがあった。
女性経験が少なかったのか、奥手だったのか、今となってはわからないけれど、もういい年なのに、結婚したいと口にするわりに、2年以上、手を出してこないというちょっと変わった人だった。

何度かことばで、体で、誘ったことはあったけれど「女のほうからそんなことを!」とでも言わんばかりの顔をして、話をそらされ、なんとも気まずい思いをした。

2年半を過ぎたとき、さすがに業を煮やして別れを切り出すと、彼は電話越しに涙声で言った。

「ソウルメイトだと思っていたのに…結婚するなら、君しかいないと思う…」

ソウルメイト、か…

実はその時、私には別の男性がいた。
いわゆる二股。

少し年上なこともあり、奥手な彼とは違って、自分の感情に正直なタイプで、出会ってすぐ関係を持ち、それから奥手な彼と並行して交際を続けていた。

その彼とは何もかも相性がよかった。
好きな食べ物も、好きな映画やドラマも、話をするペースも、されたらうれしいこと、触られたら感じる部分も全ての相性がぴったりだった。

何より、まるで申し合わせたかのように会いたいと思うタイミングが同じだった。
仕事で嫌なことがあったとき、やり場のない思いが溢れ出しそうなとき、まるで見ていたかのように絶妙なタイミングで「近くまで来てる」と連絡が来たのだった。
私にとっては、彼のほうがソウルメイトだった。

問題は、彼が既婚者だったこと…

彼が独身だったら、きっと私は奥手な彼なんて相手にしていなかっただろうと思う。
そもそも好みのタイプではなかったし、なんとなく陰気くさくて、会話も盛り上がらないから常に気を遣っていなければならず、ときどき一緒にいることが苦痛にすら感じていた。

相性のいい年上の彼が既婚者だったから、しかたなく…そう、しかたなく、奥手な彼とも続けていただけ。

その奥手な彼が、私をソウルメイトだと思っていたという。
二股をかけられていたことも、裏切られていたことも知らずに、ソウルメイトだなんて…

そういう私も、年上の彼をソウルメイトだと思っていた…
帰る場所がある人なのに…
決して私のものにはならないのに…

たいしたソウルメイトだな…

苦い思い出。

※あくまでフィクションであり、実際のできごとではありません。


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