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ハヌマーン / RE DISTORTION

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中学・高校時代にハマっていた音楽に対しての熱というものは本当に不思議なもので、あれくらいの頃に聴いていたバンドや曲は今聴いてもその時のことを思い出して感傷的になる。これは案外邦楽ロックのバンドを聴いていた人達に多い現象なのではないかと思う。
私も例に漏れず邦楽ロックのバンドにどハマりしていたのだが、そのバンドの中でもくるりやBUMP OF CHICKEN、andymori、アルカラ、SISTER JETなどいわゆる2000年代から2010年代前半頃にインディーズ界隈で精力的に活動していたバンドに夢中だった。
そんな私がその頃ハマっていたバンドの中から、ハヌマーンという私にとって物凄く大切なバンドを紹介したい。

ハヌマーンは関西出身のバンドだ。空間を引き裂くようなバンドサウンドというキャッチコピーが使われるくらい、硬質な音や緊張感のあるリズムの間が特徴的である。
どれくらい私がこのバンドから影響を受けたかというと、ベースを手にするきっかけの一つがこのバンドにあるというくらい影響を受けた。
中学生の頃、高校に入学したらギターかベースのどちらかは始めたいなと考えていたが、Red Hot Chili Peppersとアルカラ、そしてハヌマーンに出会ってしまったことでベースを始めることを決意した。
分かりやすく言うと、このバンドに人生を狂わされたのである。
ちなみに私は、この"猿の学生"という曲を聴いてからベースを手にすることを決めたのだった。




さて、本作の紹介に入っていきたいのだが、1曲目は"Nice to meet you"という曲だ。
まるでこの作品を物語るかのようなタイトルだが私は1曲目から泣いてしまう。
ハヌマーンのフロントマンである山田亮一さんは元々小説家を目指していたそうだが、一つ一つの繊細な言葉の表現、それがモロに私に刺さってしまう。
本作に収録されている中でもかなりシンプルな曲ではあるのだが、逆に言えば言葉を伝える上での無駄なものがない。


2曲目の"Fever Believer Feedback"はMVも出ているハヌマーンの人気曲だ。初めて聴いた曲はこの曲だったと思う。
焦燥・疾走感溢れるバキバキのサウンドに乗せてダメ人間や弱い人間について歌っている。
この曲の歌詞がモロに刺さることはないのだが、音に関しては私のドツボにハマる音だった。音圧然り全ての楽器のフレーズがかっこいい。
中学生の私はよく分からない歌詞を書くなあというくらいにしか思っていなかったが、それでもハマるきっかけになったのはとにかく音が凄かったという理由に尽きる。


まだまだ私は精神的に未熟であるが、中高生の頃は更に未熟だった。そんな未熟な人間だからこそいわゆる焦燥感のあるロックに傾倒しがちなのではないだろうか。
"今夜、貴方とマトンシチュー"を聴けば私が言いたいことが分かると思う。
コーラスがエグくかかった硬質なテレキャスターの音や、えりっささんが殴りつける様に弾くドンシャリのリッケンバッカーのベースの音、アグレッシブなピクミンさんのドラムなど、まさに空間を支配しているかのようなバンドサウンド。聴く度に注目線が集まるかのような緊張感が体を突き抜ける。
今やもうドンシャリサウンドの楽曲など聴くことはだいぶ減ったが、ハヌマーンを聴くとやっぱり原点回帰した気分になる。大好きな曲だ。



さて、ハヌマーンは随分前に解散したが、現在は各々違うバンドで活動している。
バズマザーズやマイミーンズ、サニアラズなど、どれも系統は違うバンドだ。私はやはりハヌマーンが一番好きなのだが、今の活動も応援したい。
いつまでも自分の好みのような音楽を続けてくれるとは限らないし、そんなものの為に彼らは曲を制作していないだろう。当たり前の話だ。
それでも前を向いて魂を売るくらい音楽に情熱を注いでいてほしいということは変わらない。



"ワンナイト・アルカホリック"はハヌマーンの中でもかなり人気の高い曲(というか知名度が高い曲)だ。
特にCOUNT DOWN JAPANでのMCと演奏はもはやファンの間では伝説と化している。
YouTubeにアップロードされているライブ映像は環境が良くなかったのかマスタリングされていなかったのか分からないが音がチープに聴こえてしまうのだけが残念だ。生で見たら失神するかもしれないくらい良いんだろうなと思いながら聴いていた。
この曲はNumber Girlっぽいという評価を受けることが多々あるようだが、その気持ちは分からんでもない。
"ワンナイト・アルカホリック"は特に若者特有の思考や体験、原風景が鮮明に描かれている。まあ私が中高生の頃にハマるのは無理もないと今振り返ると思う。




ここからアルバムは後半戦に入るわけだが、特にラストの2曲は本当に私にとって特別な曲だ。  

タイトル曲の"RE DISTORTION"は少し厨二病の匂いがする歌詞。
もはやマスロックなのではないかと思わされる程に洗練された音は、ド肝を抜かれる。というか、これを歌いながら弾く山田さんはどれだけ上手いんだ、といつも驚かされる。



このnoteを書く上で、企画を始める上でどうしてもこの曲だけは触れておかなければならない、という曲が私の中にある。それは『World's System Kitchen』というアルバムに収録されている"若者のすべて"という曲と、本作に収録されている"幸福のしっぽ"という曲だ。
この2曲に関してはもはやそういう言葉で言い表すのも嫌だと考えてしまうくらいに私の中で大事な曲だ。


この2曲は、まさしく「私」なのだ。
山田さんはこの2曲で私のことを書いたのだろうか?と錯覚してしまう程に、自分と重ね合わせてしまった。
考え過ぎて、馬鹿になって、鬱になって、自分が何なのか分からなくなる。常にそんなことを考えながら私は生きてきた。他人を傷つけたくないのに自分のエゴやよく分からない余計な思い込みや行為のせいで、自分の存在意義すら分からなくなる。そんな私を他所に、時間は流れる。

そんな、どうしようもない私にも「明日も生きるしかないんだぞ」と静かに怒鳴ってくれる気がする。
決して手を差し伸べているわけではないと思う。だが、その人の苦しみが痛いほど分かる人でなければこんな曲は書けないと思う。
この曲を書いた山田亮一さんは良い人間とは言えないかもしれないが、少なくとも私の心の中身を全てこの2曲で代弁してくれた。人の弱さや葛藤が理解できる優しい人間だと思う。彼も本当はすごく弱い人間だと思うが、そんな人間だからこそ書ける曲が私は本当に好きだ。
"幸福のしっぽ"は、本人も今まで書いた曲の中で一番傑作だという旨の発言をしていた。私もこの曲は大名曲だと思う。
解散してハヌマーンを知る人が少なくなっても、私はこのバンドに、この曲に出会えたことを生涯忘れないと思う。



昨年度の大学のサークルの追いコンで、私が尊敬しているドラムの先輩とハヌマーンのコピバンを最後の機会にやった。
好きな曲が多くて選ぶのが大変だったが、やっぱ最後はこの曲だよね!と二人で一致したのが、本作の最後に収録されている"リボルバー"だ。
"幸福のしっぽ"でも泣いてしまうが、この曲ではもう全部の感情が出てしまう。順番がずるい。
ティーンエイジャーや私のような大学生が抱える若者の怒りや悩み、それらを山田亮一さんなりの言葉の解釈で描いている。ラスサビ前のベースのルート音が鳴っている時から私の涙腺はもう決壊していた。
楽曲の本編の後には、色々あったけど辛いことも今だけは笑い飛ばそうという弾き語りと合唱の様子が収録されている。

常に愛を 常に希望を 常に涙を 常に笑顔を
常に音楽を 常にビートを 常に歌を 常に届くように

常に悩んでいても、これだけは忘れてはいけないと最後に教えられた。
忘れてはならないことをいつまでも忘れないようにする為に、私は今日もこの曲を聴くのだ。



何度も繰り返すが、ハヌマーンは本当に私の中で大事なバンドだ。それ故に今回のnoteも少し熱や感情が入り過ぎてしまったような気もする。
10代という貴重な期間において、私がこのバンドに出会えたことは重要な意味があった。
私と似たような音楽の聴き方を中高生時代にしてきた人達には、冒頭で述べた中高生の頃の好きなものに対する熱量の話が伝わっていると思う。
そんな我々にとって大事な社会的モラトリアムの中で、ハヌマーンに出会えたことはとてつもない意味があった。

noteは社会人だけでなく学生の利用率も高い為、是非このnoteを読んだ学生の貴方にはハヌマーンを聴いてほしい。私と似たような人間なら尚更耳と頭で体感してほしいと思う。
ここ最近私の周りで辛いことが立て続けに起こっているのだが、文章を書いている今もハヌマーンの曲を聴いて闘っている。
私や貴方を救ってはくれないかもしれない、それでも側で寄り添ってくれる。本当に辛くなった時には聴いてみてほしい。

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