日本の英語教育が日本人に貶められる理由について
0.前書き
英語やドイツ語の動画を見るようになって、関連動画や関連投稿として日本の英語教育について物申す、といった内容のものが目に入るようになりました。日本での教育内容について批判的にまとめられているものが多く、門外漢ながらその内容について吟味してみたいと思い、この記事を書き始めた次第です。
1.日本人の英語力
私がドイツに来て驚いたことの一つは、東京は国際的な大都市なのだから、そこに住む人々は英語を問題なく使えるはずだ、という方程式を成り立たせている人がいたことです。私は、残念ながら違うんだ、と強く訴えましたが、いまいち腑に落ちていなかった様子。しかし、確かに各国の主要都市を観光しようとすれば、英語で接客を受けたり、英語のメニューがあったり、英語を介せばあらかたのサービスを享受できます。東京でももちろんそうでしょう。英語の表示があったり、ガイドツアーがあったり。一方でレストランで注文をしたり、わからないことを訊く、人と交流するとなると、実際難しい。
よく教育されたスターバックスの店員はそつなく対応できるけれど、デパートの展示会に臨時で採用されているアルバイトは困ってしまう。
私達自身のイメージとしても、「日本人は英語ができない」というものが植え付けられていると思います。
そして、その原因として、教育の質を疑ってしまうこともよく理解できます。今の制度には明るくありませんが、少なくとも中学の3年間は義務教育として、そして多数が通う高校の3年間でも英語は教科としてあります。
6年間近く英語に触れているのに、どうして話せないのか。英語でコミュニケーションが取れるようにならないのか。
その疑問の矛先は日本の英語教育内容や、制度そのものに向くわけです。
2."This is a pen"なんて馬鹿らしい
私が目にした投稿の中にこんな主張をしているものがありました。
「私達が英語教育の中で習う、This is a penなんていう文章はネイティブは誰も使わない、非実践的である。そんなものを覚えるよりも~~を覚えろ!」
まあ言いたいことはわかります。英語を使う時に、誰かにこれはペンだと伝える機会は、(赤ん坊や学習型AIに対して以外)確かに全く無いからです。ペンの概念を知らない大人などこの世にほとんどいません。そんなことよりも洋楽や洋画でよく使われるような表現を学ぶほうが一見有意義そうには思えます。
しかし私がそれを最初にみたときは、なんて馬鹿な主張かと思いました。この投稿をした人は、きっと、"This is a pen"という至極単純な一文を通して、私達日本人がいかに多くのことを学べるか知らないのでしょう。
Thisはなにかを手近にあるものを指し示す言葉であるようだ。isはThisとa penを=でつなげる役割を果たすようである。aを使えば、そのpenという概念全体を示すことができるようだ、等々。
日本語の作りと英語の作りは全く異なります。それを文法的に英語に触れたことの無い、12歳だか13歳だかに示すには、私にはとても完璧な一文に思えるのです。
ということもあり、私には日本の英語教育が根本から間違っているとか、極端に批判的になる必要はないと思っています。
少なくともセンター試験や共通試験を目指して、高校生は英語力の強化を図るわけで、その際にある程度の英文は本当に読めるようになっています。語族が全く異なる言語でありながら、ここまで引き上げるのは、やはり並大抵のことではない。
3.英語の発音がカタコトな教師が悪い
次にあった主張は、教員の質についてです。
英語の授業のくせにすべて日本語で行われるし、たまに先生がする発音の指南も、いわゆるカタカナ英語で全く的を得ていない。そんな発音習っても英語が聞けるようになんてならない。こんなんじゃ英語なんて一生身につかない。だから英語のドラマや映画を見ろ、と来るわけです。
これには少し共感できるところがあります。しかし、やはり根本的な問題にまでは目を向けられていない。
これは全くもって日本語という言語自体に問題があります。
先生が頑張って発音しても、結局カタカナ英語になってしまうこと、生徒がどうしても英語を聞き取れないこと。
言語学や音声学の分野ではすでに判明していることですが、たとえば日本語にはLとRの区別がありません。私たちはヘボン式ローマ字表記で便宜的に「ら行」をRで表記しますが、らりるれろ、は一般的なRとは異なる発音をしています。
そのため、日本語のみの環境で育った子供は乳児の段階で、LやRの音の違いに対する反応が鈍くなり、そして反応自体が失われていきます。音が聞き取れなくなる、ということはもちろん音が発音できなくなるということです。
そしてその代替として、自分にわかりやすいカタカナで英語を話そうとする、聞こうとすることになるわけです。
それを防ぐために、まずは文法やなにやらよりも先に、どうやって発音をするのか、発音の違いが何なのかを学ぶ必要があるのですが、それは指導要領に組まれているのでしょうか?
蛇足ですが、私は幸運なことに初めて英語を学ぶ場でフォニックスや発音記号の解読から入ったので、比較的聞き取りやすい発音をしている、とよく言われます。発音で悩んでいる人は一度フォニックスをおすすめします。
そして、カタカナ英語の短所は英語圏の人々にとってメジャーな訛りでは無いということです。
皆さんはロシア語圏やイタリア語圏の人がどうやって英語を話すか聞いたことがありますか?
ネイティブかと思うほど流暢に英語を話す人もいますが、彼らのなかには、とても強く母語のアクセントが出る人が多いです。それは、例えばRの発音がイタリア語では非常に強く発音されるため、それを引きずっている人が多かったり、ロシア語のメロディのまま英語を話していたりするからです。
母語の特徴を英語に引き継いでいるにも関わらず、彼らの話す内容はネイティブにとってカタカナ英語よりわかりやすいはずです。いくらRの発音が違っても、イタリア人のRはこうなる、とか簡単に予想がつくから。
一方で、日本人の話す英語の特徴を知っている人はほとんどいないでしょう。だから何を言っているのか予想すらできない。
つまり、日本語という言語そのものの影響で私たちはデメリットを被っているので、先生を責めてやるなよ、という気持ちになりました。
4.日本人はまだまだ欧化思想が強いのか
英語が話せないことで自分が日本人だからと開き直ったり、逆に英語ができる少数派の日本人として威張ったり、私達日本人ってなんだかんだ囚われているよなあと思います。何に、かはまだ適した言葉を見つけられていないのですが。ただ、少なくとも何らかのコンプレックスに。
私が日本を出て気づいたことは、日本が文化的に非常に高度に、そして多様に発展しているということです。別に英語を使えなくても、私たちは日本で、日本語だけで自分の望むことをほとんどこなせます。ユーチューブ上に日本語のコンテンツは非常に多く存在し、ネットフリックスも日本のアニメだらけ。外に出かけるにしても一日中開いている居酒屋・カラオケ。劇場の選択肢だって多い。ライブやフェスは毎週のように開催されるし、サンリオのおもちゃだって買わなければ。ドラッグストアや百均などにあふれかえる便利グッズ、文房具。
驚くべきことに、私達の望みはほとんどすべて国内で完結します。日本人が発明し、日本人によって提供されるものを、日本人が受け取る。島国ゆえの国民性も起因しているのでしょうか。
こんなにも完成された文化に暮らしていて、なおも英語がどうだこうだと悩む。それは心の奥底のどこかに、欧米は日本よりも素晴らしい国である、見習わなければならない、という思想が残っているのかな、と。
いや、学術的にだったり、世界の一市民としては確かに英語ができるべきですが、だったら読み書きだけで良かったりなあと。というかSNS上でコンテンツとして英語がどうこう言っている人たちって別にそういう目的のためでもなさそうなのが、私にはあまり理解できない部分でもあります。
英語を使って例えば今のイラン情勢をもっと具体的に知りたい、とか別に思ってないですよね?
どちらかといえば、自由そうに見えるアメリカ生活とか、個性尊重とか、そういったものに憧れを抱いているだけなのでは?
確かにそれらは素晴らしいものですが、それを欧米文化に付属するものだと考えてしまうと、逆に日本で生きる自分の首を締めかねないのでは?
ただ、私がそういう視点を持てるのも、海外に出て、日本という国を外から俯瞰できるからであって、なんというかままならないですね。
私は今は福沢諭吉や岡倉天心なんかに心持ちは近いです。諭吉は国外に出てないはずだけど。
日本の文化って、やっぱり日本語でしか消費できないから、外国人にとっては未知なんです。日本人です、って言ったら寿司・アニメ・ラーメンしか言われない悲しさ。それを伝えていくためにも、やはり英語ができる人材は多いに越したことはない。日本語のコンテンツも英語で消費できる形にしたほうがいい。
手段としての英語はやはり使えなければ。
5.まとめ
物事をよく考えるのが私の長所で、考え過ぎるのが短所です。
コンテンツとしてあえて短絡的に、劇的に、誇張するように作られているものに対して、わざわざ反応する必要性は無いのかもしれませんが、私としても思うところがありましたので、今回自分の考えをまとめてみました。
私が常に思うのは、英語は、言語は手段であるということです。
そしてまた、英語ができないからと言って、その人の知性にはなんの関係もありません。英語ができても、適切な本を読まなければその人に知的魅力はありません。
願わくば日本の人々が自分たちの文化の希少性を世界に広めたいとおもいますように。
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