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【天国と地獄:餓鬼道編】(草稿)

1⃣僕は、メルカリで副業中しながらフリーで挿絵をかいている。まだ、本業一本では生活できないが、副業のメルカリは、意外と上手くいっていた。収入の柱を複数もつことがスタンダードになりつつある時代に僕らはいる。
 おやじは僕を33のときに生んだ。おやじは、僕に耳にたこが内耳にまで届きそうなほど繰り返し言う。
「絵で食っていけないなら、どこか安定したところに就職するんだぞ。」
親父の言うことは、33年分じゃない、100年古い。だけど、親父にもう反抗したりはしない。以前はしていたけどね、そんなのは無駄なのさ。親父は親父なりで今まで会社員で生きてきたわけだし、理解のあった親父かと言ったらそんなことはないけれど、それにまがいなりにも僕を美大に行かせてくれた。だから親父からの忠告は、愛情から発したんだって気持ちだけありがたく受け止める。親父の言うことを全部聞くことが、親孝行じゃない。

絵だけで食っていけない?僕はまだ20代半ばだぞ?この寿命120年時代に、まだ3分の一も達していない。あきらめるなんて思想は、これっぽちも僕に入り込まない。3年、閑古鳥が鳴いた状態が続いた。凹みに凹んで、絵筆を折るということも考えたが、1000枚かくまではとにかく、描くことに専念した。やり抜く力、グリッドというやつなのか、立ち直る力、レジリエンスというものなのか、そういう力は相当鍛えられたのだが、これっぽちも売れなかった。しかし、今ではちょくちょくと 僕の絵に興味を持ってくれる人もでてきた。オンラインでのアート展示のプラットホームが発展してきたおかげでもある。当初は手書きにこだわっていたが、デジタルアート作品にも視野を広げたのが可能性を広げたのだろう。やはり手書きは好きだから、これも続ける。

絵だけで食えない、だからってどこか「安定」を求めて、会社員にあったりもしない。どの道安定なんてないからだ。その代わり、絵という表現で活動する道を模索し、技や表現力を磨きながら、同時に新しい副業の挑戦を続けようと思ってる。表現活動に深みなり個性なりがつくことも考えられる。

そんな僕は、かっこつけたってただのフリーターだ。

ある日僕はいつものようにパソコンを立ち上げた。瞬時に僕はとあるメルカリの商品に目をとめた。何かの箱のようだったが、僕は買い物のためにメルカリを見るんじゃない、稼ぐためだ、と僕は間髪いれずに仕事にとりかかった。

しかし、奇妙なことに翌日もその翌日もまたあのやたらと目を引くアイテムが表示された。僕に入ってくる視界情報の中でも際立って注力を引く。あれは、5日目だったかさすがに僕は凝視した。これだけ目を引くのだから、研究にはなると目を通すことにしたのだが、実のところ、いいねがついているのを見た事がない。

それは、髑髏がついた宝箱でRPGや異世界ファンタジー系の漫画で見られるようなミミックが出てきそうな木製の箱だった。

僕は、仕事の集中をそがれたようで少しいらだちをおぼえながら、半分やけになって商品説明欄を一読すべくその宝箱をクリックした。


『当商品00(ドラコニア・裟馬缶(さばかん 宝箱やめてこっちにする?やめとこ。)・雲表・八雲・磨如意門スター)にご興味をもっていただき、誠にありがとうございます。』

ふざけた名前だ。
『この商品に出会うことができる方はとても限られております。あなたは、100万人に一人に選ばれました』
それに、まるで詐欺の常套句だ。

『当商品は、体験型BOXでございます。
当BOXを付属の鍵で開くことで、あなたが見たい世界を自在に体験することができます。

このBOXをひとつご購入いただければ、次回からは、鍵をお買い求めになるだけで、また別の異世界を体験することができます。

ただし、その世界は必ずしもあなたの願望を反映するものではございませんので、ご注意ください。
例えば、お客様が美女に囲まれる世界をご希望されたとしてもご希望どおりの展開になるとは限りません。
また、鍵をなくされた場合は元の世界に戻れなくなることもございます。当社は責任を負いかねますので、重々にお気をつけください。』

ふざけた商品だ。
そう思いながらも僕の手は注文ボタンに触れていた。

2⃣

宝箱は、意外にもそのままの形で家に届いた。梱包はプロのそれといってもよく、ごくごく丁寧に包まれていた。そして、やたらとでかかった。僕の1LDKの住まいは、ミニマリスト、というほどでもないが、大きな机ひとつの上に絵描きの道具があるぐらいでものがほんどない。ソファさえもなく前の彼女がおいていったクッションがひとつおいてあるぐらいだ。ペンギン好きの彼女で、横から見た皇帝ペンギン(の赤ちゃん)で羽を広げるようにしているクッションだ。こいつがかわいいのか、彼女のことが忘れられないのかは判然としないし、追及しようともしないようにしている。

届いたばかでかい箱は、どくろもついてまるで棺桶のようだ。
僕は、添えらえていた説明書らしき紙を開けた。こんな大荷物のわりには、ペラペラの紙が一枚と、小冊子が一点。

『異世界体験ボックスの取扱説明書
お買い上げ、誠にありがとうございます。

当00は、お客様がかねてから見てみたいと願っている異世界を旅することができます。

案内人が注意事項を説明致します。

案内人は、付属の冊子から一人選んでください。
お望みの異世界へは、鍵の取っ手を握りながら鍵穴へ差し込んでいただくことで移動が可能となります。

それでは、旅をお楽しみください。

追記

異世界と申し上げましたが、
あなたが生きていると実感しているその地上こそが幻影です。』

なんだ、これは?要は、この髑髏の取っ手を握って天使の羽の鍵を開ければいいのだな。天使を髑髏に差す・・。いいのかわるいのか。

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目をとおしていただき、ありがとうございました。次回に続きます。

マガジン作成するので、いつでも読みに来てくださいね。楽しんでいただければと思います。


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