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『zakuro,その断片 /ver 0.8.0』 (8)


「洗濯日和」


  ぴんと張ったロープ一面に白いシャツがはためく

  ずらりずらりと並んで青い空にはためくシャツたちよ

  一番端の白いシャツには赤い天使がわらっている

  真ん中らへんの少々狡賢い一枚には銀の鎖が引っ掛かる

  斜め下の小さなシャツには優しいキスを!
 
  なんという洗濯日和だろう
  
  かあさんも満足そうだ
  
  ねえさんも満足そうだ
   
  赤ん坊も今夜は陽の香と

  ヴィタミンのなかで眠れるのだろう


  青い空も満足そうだ

  黒い鳥も満足そうだ

  なんという洗濯日和だろう
 
  洗濯機も満足そうにぐるぐると回っている

  かあさんがシャツを脱水機にかけて

  ぎゅるりぎゅるりとハンドルを回すのは末のいもうとだ


  みんなが今夜は日光とヴィタミン豊富に眠れるだろう

  ロープを渡した庭の樹木も今夜は酸素と二酸化炭素を巧妙に

  呼吸しながらまどろむだろう

  洗濯日和の楽しさや


  粉洗剤の箱とコーンフレークの箱が双生児

  かあさんは調子にのってパンケーキも庭で焼く

  ねえさんと妹たちは歓声をあげて糖蜜をかける

  赤ん坊の木陰の揺りかごに栗鼠たちがそっと近づく

  なんという洗濯日和だろう


  洗濯日和の楽しさや

  みんなが今夜は日光とヴィタミン豊富に眠れるだろう


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 もくじ

 *

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