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面倒という癒し

万年筆のインクを換えた。

キャップと軸を取り、空いたジャム瓶に水を汲んで。
ちゃぷ、とペン先を浸して、コンバーターをキュルキュル回して…
インクが水中に吐き出されて、墨や絵の具のようにゆるやかに広がっていく様が麗しい。

入っていたのは薄い色のインクだったしいいや。と横着して、そのまま次のインクを移し替えた。
いけませんわね。

ゆらめくインク〈凍空〉
オーロラを思わせる遊色

万年筆ユーザーはご存知だろう、手入れには少々手間がかかるのだ。

気持ちに余裕がないと、この手間が恐ろしく煩わしい。
インク切れを心穏やかに迎えられるかどうかが、私のバロメーターになっている。
インク瓶ではなく、ボールペンを手に取ってしまったら、お疲れのサインだ。

こうした「ちょっとした手間」を楽しめると、生活が潤う。
たとえばコーヒーを丁寧にドリップする。
たとえば腕時計や靴を磨く。

ともすれば面倒な作業を、時間をとってゆっくりと。
行為そのものが日常の彩りになる。
その日は良い日になる。
すると、ちょっとうれしくなるじゃないか。
そんな余裕を、いつも持っていたい。

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