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明日の自分に匙を投げよう

大学生の頃、不眠症を患ったことがあった。
二日も三日もとんと眠れない。
かすかに眠気が訪れたかと思えばすぐにふっと途切れてしまう。
経験のない人にはわからないだろうけど、眠れないというのは本当に辛い。
不安や疲労を抱えたまま、今日と明日の区別もない漠然とした時間の中を彷徨い続ける。
意識はぼんやりとして体は重く、心は砂のように崩れていく。
私はそのまま休学して、一年後に退学した。
現在も残る持病の前兆の一つだった。

眠れない理由はそれぞれ複雑にあるけれど、明日の不安のためという人は多いだろう。
私も明日への不安はいつもあった。
運動会に発表会、今朝の友達の反応、はっと気付いた仕事のミス、返信のないメッセージ、ただ漠然と悪いことが起こりそうな不安。
ぐるぐると考えながら、いつまでも夜が明けなければ良いと願う日も多かった。

そんな私が不眠症から学んだことは、どんなに考えたって明日のことはわからないということだった。
かもしれない、だろう、もしかしたら、と最悪の予想を重ねても、案外何気なく過ぎていくこともある。
最悪の事態が起こるとしても、寝る前にこれから出来ることなんて、おそらくない。
考え過ぎて眠れなくなるような真面目な心の持ち主たちは、その人なりに最善を尽くしている場合が多いだろう。
人事を尽くして天命を待つという言葉もあるように、やれることはやったなら、あとは運命に任せるしかない。
眠りについて、せめて体力だけでも回復するのがその時できる最善だ。

私は、明日の心配は明日の自分に任せるようにしている。
今日は諦めて、後はよろしくと匙を投げる。
まだ起こってもいない心配事に費やす時間はなるべく短いほうがいい。
どんなに考えたって答えはわからないのだから。

それでも不安で眠れない夜はある。
どうしても頭から離れなくて、不安の種が次々と芽を出してしまう。
私は、そうなったらお医者さんに相談するのが一番だと思っている。
薬を飲んで眠れるようになるだけでも少しずつ気持ちが回復するので、眠るというのは本当に重要なことだと知った。

考えるなと言われて消えてしまうような心配事はないけれど、考えても仕方がないと知っておくだけでもほんのり心が軽くなる。
これを読んだ優しい人たちが、少しでもよく眠れますように。

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